「薬」
 
悲しい目をして不精髭をはやした男が僕の目の前に座っている
ふとした仕草が何処となく僕に似ている 煙草の吸い方まで何処となく僕のそれだ
良き者がそれを見失い 悪しき者がそれを見つける そしてそれはそいつに決められる
 
”僕の指輪の一部分に青い石があったはずなのに”
瞬きを忘れそれを見つめながら そんな事を疑問に思う
靴の紐と同じように僕は切れかけている
 
僕の口は閉じたままそれもいいだろう 人なんて大抵そう生きるものだから
そんな目で見ないで 僕はこれでも 心まで閉ざしているわけじゃないし
オイルを一気に飲み干す車に憧れている それなら平気に花を殺せるから
 
僕の部屋にある枯れたサボテンは 二度と人を信じないだろう
壁のポスターの若い男女は愛など少しも知らないだろう
歯車を落とした時計の様に僕は切れかけている
 
最近の僕は不安を忘れた 世界で一番も僕と言う事を知った
古い工場街でもないこの街 でもやたら数の増えた息苦しい咳き
暗がりの中で自分を慰めている女のように 僕にもね意味は無いんだよ
 
僕の仕事が缶詰工場なら きっと変な気を起こしてしまう
そして誰かに捕まって クリームソーダが二度と飲めなくなる
脳が煙を恋しくなるほど 僕は切れかけている
 
あの戦争の時に大流行だった 音楽と一緒にこいつも僕を酔わせた
新しい者達はいつしか増えたけど 古い者達はいつしか名前と消えた
夢は見なくなった 現実は全て色を失くした これが今の僕でしかない
 
時速60マイルのいつもの道で 若い男女が無数に飛び散る
映画の中じゃなくていいのに 僕の目の前で起きればいいのに
気が付いたら僕はこの手で 彼女を殺めていた
悲しい目と不精髭の男が 自分だと初めて知る















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