「過ぎ去った愛」
 
 
僕が触った過去への愚像が 僕に涙を流させる
 
黄色いハンカチをいつもポケットにしまって 過去を待っているみたいで
 
それでも僕の髪の毛は伸びて つめも伸びて 生きているんだなって実感する
 
君なしでは生きられないと思っていたその悪ふざけが いつも僕に沈黙を与え
 
煙草の灰が落ちたのに気付かないでいて じゅうたんに黒い穴をあける
 
その穴からまた昔の二人を覗こうとすると モンシロチョウの羽は枯れ
 
蛹でも幼虫でもないその最後の偽の色彩が 思い出を必死に美化させようとする
 
最後のくちづけはどんな香りだったとかどんな奇跡だったとか どうでも良くなって
 
がむしゃらに投げたその思い出は水辺を走る事無く
 
痩せた音と同時に普通に水面を揺らす
 
僕は何を触ってしまったのだろう 過去と言う物は美化して見るから綺麗であって
 
本当の僕は忘れっぽい空っぽの動物だ
 
その揺れた水面の奥のずっと深くの そのまた深くの水の中で 呼吸などできるわけない
 
ただその水辺に漂う蓮の花の 光を透かさないその形が
 
僕がもがいている呼吸を忘れた水中からの 見えるものの全てなのかもしれない
 
そのまま深く深く 落ちて行って 君なしでは生きては行けないと言った僕の
 
最後の思い出という愚像を つかもうとして流した涙が 
 
水面に何か移ろいを見せたかったのかもしれない