〈山際 淳司〉
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角川文庫、438円+税。
1973年のプロ野球セ・リーグ—この年は、最終戦で優勝が決まるという、もつれにもつれた白熱した戦いの繰り返された一年でもあった。
球界を代表するバッターでもある王・長嶋を擁した巨人がV9達成をかけた年であり、一方でライバル球団である阪神タイガースが、エース江夏・主砲田淵を中心としたチーム作りで、巨人のV9を阻止せんと燃えていた。
この書は、その巨人と阪神という好敵手であり、かつ対極のチームカラーをもつ2球団の運命の日までを描いた、スポーツ・ノンフィクションである。
記録の上では「巨人セ・リーグ優勝」という一文で片づけられるほどの出来事なのだが、山際氏の手にかかると、選手、監督、そしてコーチと、それぞれの激闘の裏にある男たちのドラマが、いきいきと蘇るのだ。
こういった戦いの舞台裏を丹念になぞらえると、その当時の記憶がまるで目の前で起こったもののように鮮やかに映し出されるような錯覚にすら陥る。
よく「野球は筋書きのないドラマ」にも表現されるが、野球そのもののもつゲーム性は、単に1回から9回までのゲーム攻防だけでなく、試合前にも後にも延々と連続性のあるものだということがよくわかる。
だから野球は、辞められない。
その魔力の虜になったが最後、ずっと追いかけ続けたいのだと、この書を読んで改めて思った。
(1998.8.25初版発行)
角川文庫、460円+税、スポーツ・ノンフィクション短篇集。
高校野球、プロ野球、ボート競技、ボクシング、バドミントンとスカッシュ、棒高跳び—分野も競技種目も異なるが、いずれもスポーツにとりつかれた男たちの、人生の一断面をとらえた作品ばかりが収録されている。
人生は連続した中に存在するものだが、その中で、時としてまばゆいばかりの光を放つ瞬間があり、山際氏は見事にその一瞬を捉え、豊かな感性で一編のドラマとして描きあげている。
スポーツできらめく一瞬を映像であるなら、、それをスローモーションであるかのように再現した、限りなく美しいスポーツ叙情詩でもある。
ビデオでも〈奇跡の一瞬〉として、NHKで再現された近鉄対広島の日本シリーズ9回裏の攻防を描く「江夏の21球」をはじめ、いずれも読み応えのあるスポーツ・ノンフィクションばかりである。
第8回日本ノンフィクション賞受賞作。
[収録作品名]◇八月のカクテル光線 ◇江夏の21球 ◇たった一人のオリンピック ◇背番号94 ◇ザ・シティ・ボクサー ◇ジムナジウムのスーパーマン ◇スローカーブを、もう一球 ◇ポール・ヴォルター
(1985.2.10初版発行)