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北海道新聞社、1800円+税、講談社ノンフィクション賞受賞。
これは重度の障害をもつ一人の人間と、彼を支えるボランティアたち(通称シカボラ)の記録である。
鹿野靖明、40歳、進行性筋ジストロフィーという病気で、小学校6年生の時に「18歳までの命」と診断された。
筋ジストロフィーは、体中の筋力が徐々に低下していく病気である。
腕や足、手や首の筋肉だけでなく、心臓や呼吸筋といった内臓の筋肉までが衰え、心筋症を患ったり、自分で呼吸ができなくなり人工呼吸器に頼らざるを得なくなっていくという難病だ。
つまり鹿野氏は24時間、誰かが常に付き添っていなければならないという状態なのである。
そんな鹿野氏が選んだ道—人間らしく生きたい。—この当たり前のことを、当たり前のごとく選択する。
が、鹿野氏にとっては、当たり前のことどころか、前代未聞の選択なのだった—しかも命をかけての・・・。
以来、鹿野氏は24時間一日三交代のボランティアを確保すべく、走り回ることになる。
彼の周りに集うボランティアたち—学生、主婦、OLなどなど、さまざまな人間がさまざまな時間にやってくる。
時にぶつかり、時に悩み、時に笑い、時に泣く。
ボランティアをしながら、当の鹿野氏に「帰れ」とまで言われる人もいる。
この作品は、「重度障害者とボランティアたち」の献身的で、美しくも泣かせる、愛の記録ではない。
当事者である鹿野氏のすさまじいまでの生への執念・・・とにかく障害者である以前に、『一人の人間なんだ!』という、壮絶なまでの叫びが聞こえてくる。
だからといって、救いがたい暗い話の本ではない!
全編を通して感じることは、「生きることへの真摯な姿勢」である。
タイトル名「こんな夜更けにバナナかよ」は、まさに鹿野氏の強烈な生きるための自己主張を端的に表している。(作中でも語られる「バナナ事件」)
シカボラの当事者である彼ら&彼女らも、「ボランティア精神」に富んだ人間ばかりではない。
ただ何となく、暇だったから、自分が変わりたくて・・・普通の悩みをいっぱい抱えた普通の人間たちばかりだ。
シカボラでは、鹿野氏と入れ替わり立ち替わり交代するボランティアたちの間で、ノートが活躍する。
95冊にも及ぶ、そのノートにもその時々の、彼らの心情が克明に残っている。
北海道を中心にフリーライターとして活動していた著者は、取材という立場から、いつしかシカボラの一員として、不定期にボランティアにも参加し始める。
2年4ヶ月、シカボラを克明に追った、人間が人間として人間らしく生きることとは何か?を考えさせられる、渾身の1冊である。
是非、一読を強くお勧めしたい1冊である。