〈辻原　登〉

読売新聞社、１９０５円。
華やかなる天平時代に、日本は大国唐の文化を取り入れるため、遣唐使を派遣していた。
その中に、時の皇帝である玄宗にその才能を深く愛され、ついには日本の土を二度と踏まずに唐の官僚となった、阿部仲麻呂（朝衝）がいた。
この物語は彼を中心に、玄宗皇帝と楊貴妃の時代を生き生きとした筆致で描く長編大作である。
朝衝はじめ、登場人物がそれぞれ魅力的に描かれている。
特に遣唐使の一員である、真幸の描かれ方が秀逸。
また、正倉院の宝物や関連した時代の流れにも関心が深まる。

文藝春秋、１７１４円＋税。
１９８９年、未だ天安門事件の余燼がくすぶる上海へと降り立った、脇彬彦。
上海行きの目的は、死んだと聞かされていた父・種彦が、生きているという噂を入手したからだった。
父は１９５０年に上海から引き揚げてきた後、神戸で貿易商を営み、結婚して彬彦が生まれたのだった。
しかしその父は、帰国から５年後に突然上海へ向かい、２ヶ月後に北京でスパイ容疑のため、逮捕されたというニュースが伝わり、６年後の夏、死亡したらしいという話だけが家族の元に届けられたのだった。
中国大陸で父に何があったのか—そして、生きているならばせめて一目会おうと、上海へ向かった彬彦を、運命の出会いが待ち受けていたのだが…。
上海と神戸、時空を越えて、惹かれ合い、求め合う男と女。
愛と裏切り、忘却と追憶…何ものにも突き動かされない究極の愛を描いた長篇小説。
表題の「ジャスミン」が、大陸的な香りを存分に堪能できる１冊。
（2004.1.30初版発行）