〈天童　荒太〉

集英社、１４００円、短編小説。
平凡な日常生活の中で、ふとしたことで気づくもの・・・。
日々の生活の中で、つい見失いがちな大切なもの・・・。
当たり前の毎日の中で、当たり前でなくなってからわかるもの・・・。
そんな、「日常的」な視点から、著者が紡いだ４つの愛の物語を、１冊にまとまたものが、この「あふれた愛」。
「家族」のためと仕事を最優先して馬車馬のように働いてきた男性が、自らの安楽の場である家庭が実は脆いものであった気づく「とりあえず、愛」。
「架空の恋人」を心のよりどころとする女性を愛してしまった男性の愛し方とは・・・「うつろな恋人」。
精神的障害を抱えながら、お互いに支え合って暮らしていこうとする男女を描いた、「やすらぎの香り」。
ある日突然死した夫、その死の最後に居合わせた青年と、残された妻を描く「喪われゆく君に」。
どの作品も、何度も何度も反芻しながら読み終えた１冊。
短編ながら、どの物語もずっしりと重く切ない。
個人的には「喪われゆく君に」が、特に心に残る。
「永遠の仔」を執筆過程に生じた、新たな素材やテーマを形にしたものと、「謝辞」で著者自身述べている。
かけがえのないものほど、日頃の生活の中では「何気ない顔」をしていることが多いものである。
人のささやかな願いや、心の繊細な綾が、見事に描かれており、読み終えた後にも、深く心に刻まれる作品の１つだと思った。