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文芸春秋社、1333円、多和田悟自身の手記「Sam's Notes」と、矢貫隆氏が綴った「多和田悟の物語」で構成された本。写真は下村誠氏。
おそらく日本でもっとも有名な盲導犬といえば、「クイール」ではないだろうか。
2001年に刊行された「盲導犬クイールの一生」は50万部を越えるベストセラーとなり、2003年夏には沢口靖子・うじきつよし・玉置浩二らが出演し、NHKで放映された。
クイールをはじめ、1974年から盲導犬を訓練する仕事を始めた多和田氏は、これまでに200組を超える盲導犬とそのパートナーの誕生に携わってきた。
盲導犬訓練士として日本でただ一人、世界にも16人しかいない特別な資格—国際盲導犬学校連盟のアセッサー(査察員)—をもち、また「盲導犬訓練士の魔術師」と異名をとる多和田氏。
その彼がなぜ盲導犬訓練士になったのか、またなぜ「魔術師」と呼ばれるのか…全ての答えは本書を読めば納得できる。
中でも、矢貫氏自身がリジェクト(盲導犬候補からはずされること)寸前のフィスとの体験歩行により、多和田マジックをさぐるくだりで、「フィスにおまえ本当に盲導犬やる?」と聞いたら、フィスは「やる」と答えました…とあるが、まさしく現代版ドリトル先生の世界である。
しかもこの話の次ページには、まさしく多和田氏と真剣に対話している犬の写真があり、その目は「盲導犬やりたいよ!」と訴えているのがよくわかる。
盲導犬訓練士とは、「犬が好き」なだけでは到底勤まらない仕事である。
一人前の訓練士になる道程はあまりにも遠く厳しい。
しかもなれたらなったで時間には拘束されるし、重労働であり、金銭的にもあまりにも報われない仕事でもある。
それなのに多和田氏の表情は、慈愛に満ちあふれ、とても素敵だ。