〈佐藤　正午〉

光文社、１７００円。
一杯のカクテルが、ときには大きく人の運命を変えてしまうこともあるとしたら・・・いや、カクテルを飲んだ本人のみならず、一緒にいた人の運命を変えてしまうとしたら—こんな微妙なニュアンスで物語は始まる。
三谷純之輔は、仕事で札幌に向かうために、翌朝一番の飛行機に乗る予定だった。
前夜は、半年前に知り合い、おつきあいを始めたばかりの彼女、南雲みはると一緒にだった。
三谷はお酒に弱いのだが、この日はみはるの行きつけの店で勧められた『アブジンスキー』という、奇妙な名前のカクテルを口にする。
強烈な酔いがまわり、みはるの部屋で休むことになるが、このとき買い忘れたものがあると、みはる一人でコンビニに買い物に出かけてしまう。
「リンゴを買って五分で戻ってくるわ」—そういって、片手をあげて笑顔を見せながら、みはるの姿は消えた。
そして、それが三谷が見た、みはるの最後の姿になろうとは・・・。
理由が全くわからない、みはるの突然の失踪に、三谷は必死で彼女の足跡を求め、捜し始めるのだった。
日常のささやかな積み重ねや、人間の心のひだが微妙にすれ違ってしまったとしたら、きっとこういう出会いや別れは、物語の中だけでなく、私たちの身近にもいくつもあるに違いない・・・読み終わったときに、ふとそう感じた１冊。
三谷の「なぜだ？」という、心のからまりが、もどかしさが手に取るように伝わってくる。
等身大の、せつなく、哀しいミステリー。（２００１．１０．９）

角川春樹事務所、１６００円。
２５年前、高校の同級生だったと自ら告げる男から電話がかかってきた。
しかも、親友であったというのだが、全く心当たりのない主人公は、さらにその謎の男「キタガワタケシ」から、１枚のフロッピーディスクを預かったが・・・。
「人生にもしもあのとき」・・・という瞬間は誰にでもあるもの。
その一瞬が人生の岐路であり、タイトル名にもなった「Ｙ」という字にどこか似ている。
せつなく、やさしいミステリー。