集英社、1400円+税。 エッセイ集とばかり思っていたが、実は歌詠み小説らしい。 昭和30年代を舞台に、幼少時の著者とその家族の物語。 一時期流行ったG社のタイムスリップグリコを彷彿とさせる世界だ。 中河内郡稲田から、両親ともに医者であったことから大阪市内で開業するために移り住むこととなった大阪市内の大正区。 幼稚園にあがるまでの幼少時代を中心に、歌を挿入しつつ、淡々と語っている。 駄菓子屋の想い出、氷を入れて冷蔵する冷蔵庫の話、ボットン便所の話、うじゃうじゃ出てくる虫の話—今では、お目にかかれないような話ばかりがぞろぞろ出てくる。 エッセイや歌集では笑い転げて読んだ記憶があるが、本書ではそういった箇所は見あたらない。 なつかしき昭和を語る、といった風情の1冊。 (2002.5.30初版発行)
文藝春秋、1359円+税、歌集。 40代にして、バツイチ、歌詠みにして、目医者なる著者の「猫持秀歌集」。 面白くも哀しい、別れた妻への愛惜の歌、ともに暮らす愛猫にゃん吉くんへの尽きせぬ愛を詠んだ歌、その他雑多にさまざまなものを五・七・五に込めて詠っている。 飄々として、軽妙洒脱。 それでいて哀愁漂いつつも、やがて面白きを知る—そんな歌ばかりを収録している。 「尻舐めた舌でわが口舐める猫好意謝するに余りあれども」 「あれも駄目これもダメよとやかましき妻の小言を聞きたかりけり」 装幀・装画、本文イラストを浜野孝典氏が担当されているが、本書の持ち味を生かしてしみじみ頷ける。 (1996.9.25初版発行)
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