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光文社、1700円。
2017年、警視庁は分庁舎を最新の東京湾埋立地である臨海区に建設、新たに新設されたのが刑事部捜査第四課特殊班であった。
彼女は、3年間の捜査3課勤務ののち、この特殊班に配属となったが、ここでの任務は、潜入捜査である。
今回の任務は、合成麻薬ブラックボール密造および密造の、高度な組織化に成功した崔将軍のもとへの潜入であった。しかも長期にわたる、過酷な使命である。
また、そこには国際麻薬機関であるINCからも、アンダーカバーが潜入していた。
彼女は「櫟(クヌギ)涼子」として、組織に潜入捜査に入るが・・・。
「あとがき」で知ったことだが、この作品はもともと、テレビゲームのプロジェクトの中から誕生したものらしい。
本書のあとにゲーム発売が予定されており、女刑事のアドベンチャーゲームとして、正篇と続篇というつながりかたをするという。
ヒロイン「涼子」の描かれ方が、これで全て納得・・・なにせ、「超」のつく美貌に、モデル並みのスタイル、頭もいいし、度胸も勇気もある。
しかも、ものすごいアクションシーンや非情な場面、ロマンチックな恋などなど、登場人物の描写やストーリー展開はもちろんのこと、全体的な印象が、どうも非現実的な感がぬぐえなかったのである。
それと、どうやら新宿鮫でおなじみの鮫島刑事が関わりがあるらしい、というのも楽しめる作品。
光文社、カッパ・ノベルス、730円。
あらゆる人間のエゴや欲望を飲み込むかのように、日々肥大化し続ける街、新宿。
その街を舞台に、悪と一人立ち向かう、刑事鮫島。
新宿署一匹狼的存在の彼を、犯罪者達は恐怖を込めて「新宿鮫」と渾名した。
強烈な個性と、哀愁とを併せ持つ、魅力的な主人公がリアルなまでの存在感を感じさせる。
必ず、読みたいシリーズ第一作。
光文社、カッパ・ノベルス、740円。
新宿署の刑事・鮫島は、「悪」に対し、敢然と戦う孤高の戦士であった。
歌舞伎町のキャバレー「ローズの泉」で働く奈美は、同じ店で働く揚が、店長の亜木に注意されているところを見かけ思わず助けてしまう。
孤独で哀しい過去を持つ奈美は、いつしか揚に惹かれていくが・・・。
一方、鮫島は一人の台湾人、郭栄民と出会う。
台湾からきた刑事であった郭はが日本に来た目的は、「毒猿」と呼ばれる台湾の殺し屋を捜すことであったが・・・。
新宿鮫シリーズ第一作をしのぐ、興奮と感動が味わえる傑作。
この作品を読んですぐに、「新宿御苑」を訪れてみたのは言うまでもない。
毎日新聞社、1700円。
久々に登場した『新宿鮫シリーズ』・・・もちろん、これまでのシリーズにも目を通してきたので、久々に鮫島刑事に会えるかと思うと、ある種の期待がふくらむ。
ページが進むにつれ、感じたことは、新宿鮫だけど、新宿鮫じゃないみたいな、そんな雰囲気が漂っている、ということ。
新宿署の鮫島刑事は、大がかりな自動車窃盗団を追っていた。
都内で、路上駐車ばかりでなく、有料駐車場からも、高級自動車ばかりを狙ったものである。
近年、窃盗車両の海外輸出を目的とした組織的犯行が激増しており、専門の窃盗グループが複数存在すると見られている。
しかしながら、自動車ナンバー自動読みとり装置『Nシステム』が導入されてからというもの、こういった車両窃盗に対しては、大幅に検挙率がアップしているにもかかわらず、この自動車窃盗団は、易々と成功しているのである。
鮫島は、Nシステムをかいくぐって、自動車窃盗を重ねる犯行を、単独で追い求め、その拠点の候補となる、ガレージを発見する。
捜査の過程で、駐車場管理をしている、一人の老人・・・大江を知るようになる。
一方、銀座でホステスをしている雪絵は、出所してきた藤野組の真壁と同棲していた。
雪絵のひそかな願いは、真壁にやくざから足を洗ってもらい、普通の所帯を持つことだった。
また、鮫島は自動車窃盗団を追う中で、死体—しかも40数年もたった屍蝋化した特異なもの—を発見する。
新宿という巨大な街を、歴史的にさかのぼりながら、さまざまな人間模様、犯罪をからめながら、描かれた傑作。
ほとばしるようなパッションを感じた、これまでの『新宿鮫シリーズ』とは、一味違う味わいのある作品。
光文社、カッパ・ノベルス、838円。
先に発売された『風化水脈』が、実は事件発生順からいうと、シリーズ第8作になり、この『灰夜』が第7作。
『風化水脈』の事件を捜査中の鮫島が、亡き友人の七回忌に出るため、彼の故郷(推測として鹿児島県のように思える)に赴くことになった。
そこで人里離れた小屋に、拉致監禁される羽目になり、その間の記憶を呼び戻そうと回想を始めるシーンから、物語が進行していく。
これまで、「新宿」という街にこだわり、その中でさまざまな事件や人間模様を描いてきたシリーズなのだが、今回は初めて東京以外での土地で起こった事件であり、いつもの登場人物も鮫島だけである。
にもかかわらず、最後まで息をもつかせねスリリングな展開は、いつも通り楽しめる。(2001.10.1)
双葉社、1800円。
駆け出しカメラマン、絹田信一のもとに、ある日かかってきた1本の電話が、全ての事件の発端だった。
その電話は、50歳くらいの上品な女性の声で、信一の父が亡くなったと告げる。
その父とは、2歳の頃に母が信一を連れて離婚して以来、24年間音信不通であり、ただの一度も会ったことがないのである。
父の最期を看取った早坂さんからは、父の遺した一枚の絵—何の変哲もない『島』が描かれたモノ—を形見としてもらう。
ちょうどその頃から、信一のまわりで、空き巣やら、謎のお金持ち原口からのアシスタントとしての誘い、父の友人と名乗る男の出現、大手芸能プロダクションからの唐突な撮影以来、さまざまな出来事が起こり始めるのだった。
そして、殺人事件と恋人美加の誘拐までもが起こったとき、信一は全ての謎の鍵である、『島』の秘密に迫ったのだが・・・。
平易な文章と、二転三転する展開とで、最後まであっさりと読める。
ただその分だけ、心情や動機といった、心理的なモノへの踏み込みが浅く、小説というより、漫画を読んだような気分になってしまった。(2001.10.1)
文藝春秋、2000円、長編。
『佐久間公シリーズ』の第6作目(2001.1現在)。
佐久間公は、失踪調査専門の私立探偵でありながら、薬物依存者の立ち直りをはかる相互更正補助施設「セイル・オフ」の理事をも勤めていた。
そこに、新しくメンバーに加わった少年——雅宗の言動が、非常に気になっていた。
セイル・オフで更正しようとしながらも、卒業し外界に戻ったときに、再び薬物依存者となる危険性があると自ら言うのだった。
さらにはその危険性の原因となる、女—謎の女子高校生—に対し、雅宗は狂おしいほどの愛情と恐怖を併せ持っているのだった。
一方、私立探偵の仕事として、「押野」という人物から、新たな依頼を引き受けうけることとなった。
今回の調査は、年間数百万部の発行部数を誇る週刊少年マンガ誌において、11年間もの間、人気のトップをひた走りながら、現在は消息不明になっている漫画家——「まのままる」を探し、近況を知りたいというものだった。
渋谷を舞台に、薬物依存になった高校生、チームでありながら連帯感が希薄な若者たち、それぞれの浮沈をかけてシノギを削り合う暴力団、知られざる巨大マーケット週刊少年マンガ誌の内情、漫画家の実態等々が絡み合っていく。
また随所に、職業としてよりも、自らの生き方とした「探偵」という仕事に対する、佐久間自身の考え方や姿勢が窺える。
「若さ」を武器に探偵をしていた頃よりも、「おじさん」になってから直面する、さまざまな葛藤がよく描かれている。
そういう意味合いでも、微妙な心のひだまで丁寧に描かれた作品。
ただし、登場人物の描かれ方として、キーとなる謎の女子高生の「憎しみ」の根元、雅宗への対し方、等々の描かれ方に消化不良を感じた点が残念。
でも、やはり佐久間公シリーズは、味わい深いことには変わりがないと、確信できる1冊。
小学館、上下2巻、長編。
映画化もされた「天使の牙」の続編にあたる。
日本最大の麻薬組織「クライン」との戦いで、世界で初めて脳移植により、蘇った元河野明日香こと—神崎アスカ。
明日香の人格をもった脳と、元クラインの愛人で美貌を誇ったはつみの肉体によって、生まれ変わったアスカが、今回は麻薬取締官として登場。
数々の難事件に、かつての相棒であり、また恋人でもあり、鬼刑事と称された古芳と共に挑むのだが…。
とにかくのっけから、殺人の雨嵐…上下2巻で一体、何人犠牲になったことか。
スーパーハードボイルドなのでしょうが、私的にはちょっと物足りない。
結構、分厚い2冊だったのだが、同じような描写が延々と続き、頁数としてはこんなに必要としないと思う。
まあ週刊誌の連載だったということで、仕方ないのかも。
幻冬舎、上下巻、各1667円+税、長編。
千葉の漁村で暮らす、元刑事・西野のもとに意外な来客が訪れた。
警察庁の女性キャリア時岡である。
彼女は現在進行形で起こっている連続殺人事件—やくざの組長の子供ばかりが襲われるという特異なもの—解決のために、西野に白羽の矢を立てる。
舞台は新宿歌舞伎町で本格的に幕を上げ、そこには現職刑事佐江、やくざ、中国マフィア、公安、殺人請負チーム等々が入り乱れ、血を血で流す、壮絶な戦いが繰り広げられるのだが…。
組長の子供ばかりを狙う殺人鬼とは?またその狙いは一体何なのか?
警察という組織を離れた元刑事なだけに、危険すれすれの非合法捜査にならざるを得ない西野が、辿りついた先に待ち受けるものとは…。
大沢作品としては、標準的なものだと思う。
主人公の西野より、脇役キャラの佐江刑事、芳正会・原の存在が際だっていた。
それにしても、この作品も数え切れないくらい、大量の殺人があったなぁ。
最後には、生き残った人数を数えた方が早いくらいのものすごさだった。
最近の大沢作品って、大量殺人化が目立つのだろうか?