書名&たまえもん度★をクリックすると「たまえもん書評」が表示されます
祥伝社ノン・ノベル、886円。
ノンフィクション作家の葛木志保は、仕事でコンビを組んでいた式部剛に、自宅の鍵を預けたまま、失踪してしまう。
過去をいっさい切り捨てたような彼女の経歴を追い求め、式部は地図上にもその名を残さない島—夜叉島—に辿り着いた。
そこは島中に風車と風鈴にあふれ、余所者には決して心を許さず、誰も本当のことを話してはくれない閉鎖的な島であった。
また明治以来の国家神道から外れた、いわば邪教とも言える『黒祠の島』でもあった。
葛木の行方は、島に渡るフェリーに乗船するところで、ぷっつりと途絶えてしまう。
式部は苦労しながらも、葛木の行方を島中で探し求めるが、そこで知った事実とは・・・。
おどろおどろしいほどの古い迷信と因習にしばられ、しかも「島」という閉鎖された特殊な環境における陰惨な事件を扱った長編。
作家に対する期待度は、久々だっただけに高かったが、結末的にはやや物足りなさが残る。
新潮社、上下巻、上2200円、下2500円。
今もなお土葬の習慣が残る外場村。
閉鎖的だが、平和な村に一軒の洋館が移築され、さらにその館に住人が引っ越してきた。
その頃を前後して、村に奇病が蔓延し始める。
健康な人間が夏風邪をひいたような症状で、次々に死んでいってしまうというものである。
その奇妙な符号に気づいた、村の医師と友人の僧侶は原因究明に立ちあがるが・・・。
上下巻ともに、半端ではない厚さを誇る。
しかしながら、その作品の質の高さには驚きを禁じえない。
じっくり読みたい。
新潮社、1500円。
帝都東亰の闇を舞台に妖しく跋扈する妖怪、殺人鬼。
罪もない人々を次々と血祭りにあげる殺人鬼の狙いとは・・・。
元摂関家の鷹司家をめぐる跡目相続争いを軸に繰り広げられるミステリー。
明治開化のロマンが香る、妖しの物語。
公爵家の跡目争いに巻き込まれた直と常の異母兄弟が美しくも哀しい。
講談社、ミステリーランド第一回配本、2000円。
ミステリーランドとは「かつて子どもだったあなたと少年少女のための—『本』の復権を願ったシリーズ」である。
豪華な装丁、漢字にはルビがふってあり、まるで絵本のように挿絵もワクワクする。
本書では、挿絵は村上勉氏が担当しており、佐藤さとる著の「だれも知らない小さな国〜コロボックルシリーズ」を懐かしく思い出す。
夏休みに耕介をはじめとして、親戚一同がとある山奥にある本家に集められた。
本家は大きく、どこもかしこも古く、際限がないくらい和室が障子と襖で区切られて延々と続いていた。
大人たちは何事かを相談しているらしいのだが、耕介ら子どもたちは「四人ゲーム」を試そうと蔵座敷へ向かう。
そこで子どもの数が、どんなに数えても一人多いことに気づく。
どうやらいつのまにか座敷童子が紛れ込んでいるらしいのだ。
そんな謎が起きている中、本家の中で次々と大人たちを狙った怪事件が発生していく。
親である大人たちを守ろうと、耕介たちは探偵になって謎を解明しようとするのだが…。
古くて大きな家の持つ不思議、日本古来からの伝承といった独特の雰囲気に、座敷童子と本家跡継ぎ問題とが絡み合う。
子どもの視点で描かれたミステリーだが、大人も十分楽しめる作品。