1959年岐阜生まれ。プランナー・コピーライター・構成作家を経て、作家となる。著書に「最悪」「東京物語」「ウランバーナの森」「真夜中のマーチ」など。2002年に「邪魔」で第4回大藪春彦賞受賞。2004年第131回直木賞を「空中ブランコ」で受賞。今、注目急上昇中の作家でもある。 |
集英社、1500円。
ヨコケンこと横山健司は、「ビバップ」というイベント・パーティなどを主催する会社を経営していた。
ある日、開催したパーティに何と三田財閥の御曹司、ミタゾウこと三田総一郎を発見。
ひょんなことをきっかけに、ヨコケンとミタゾウがあるやくざの秘密賭場に進入する羽目になってしまう。
そこで謎の女、クロチェこと黒川千恵と知り合い、彼女の愛犬ストロベリーも交え、3人と1匹が10億円のブラックマネー強奪を計画する。
大都会の夜を駆ける3人と犬1匹を中心に、やくざや怪しげな中国人、したたかな社長、気弱な弟等々が登場し、スピーディーに展開していく。
果たして、最後に10億円を手にするのは一体!?
テンポがよく、ユーモアとしゃれたセンスがほどよくミックスされた小説。
登場人物がいきいきしており、キャラも際だち、文句なく面白かった1冊。
文藝春秋、1238円+税、短篇連作集。
一風変わった精神科医・伊良部一郎の元には、日々さまざまな症例で悩む患者が訪れる。(いや、正式には総合病院から無理体に回される、だろうか???)
ストレスで原因不明の体調不良に悩まされる雑誌編集者、イチモツが勃ちっ放しという奇病に困り果てる会社員、自分の美貌に絶対の自信を持ちつつも目に見えないストーカーに脅えるコンパニオン…などなど。
いまどき現代社会の縮図のような、心の病を抱える者たちがワラワラと登場する。
そして迷医—いや、名医伊良部の見事なカウンセリング治療が—と言いたいところだが、まあそこはむにゃむにゃ…。
伊良部医師のチャーミングな言動もそうだが、無愛想な看護婦マユミもいい味している。
それにしても全編、笑いとペーソスに包みながらも、現代社会に巣くう病巣が見事に描かれている点はお見事。
真面目な人ほど、陥りやすい現代病を笑うが心底笑えない、といったところだろうか。
肩の凝らない短篇小説ながら、今日日伊良部医師のような存在は何と貴重なのだろう。
「イン・ザ・プール」に続く、第二作「空中ブランコ」(2004年第131回直木賞受賞)も既に刊行されており、楽しみである。
これって、やはりシリーズ化ですよね!?
[収録作品名]◇イン・ザ・プール ◇勃ちっ放し ◇コンパニオン ◇フレンズ ◇いてもたっても
(2002.5.15初版発行)
文藝春秋、1238円+税、短篇連作集。
おなじみ精神科医伊良部一郎が今回も紙面をせましと(!?)暴れ回る。
トホホな心の病に悩む患者たちを迎える、温かい、いや素っ頓狂な「いらっしゃーい」の声。
この声とともに、患者と伊良部センセの奇妙な治療が始まるのだ。
今回は前作以上に、伊良部センセのプライベート部分も徐々に明かされている。
今でこそ変だが、大学時代はごくまっとうな学生であったといいたいところだが、これはまた読んでのお楽しみ。
それにしても患者がどんなに悩もうが、落ち込もうが、悲愴になろうがお構いなし!
抱腹絶倒医師、伊良部は今日も我が道を進むのみ。
できるなら通勤途中の電車の中などでは、絶対に読んで欲しくない本。
第131回直木賞受賞作。
[収録作品名]◇空中ブランコ ◇ハリネズミ ◇養父のヅラ ◇ホットコーナー ◇女流作家
(2004.4.25初版発行)
講談社、1400円+税、短篇集。
さまざまな会社を舞台に、さまざまな会社員を主人公とした短篇が5作品収録されている。
表題作「マドンナ」は、営業三課に異動してきた女子社員に恋をする課長の物語。
大手メーカーで営業畑を歩んできたエリートが、はじめて事務系の総務部に配属となり、同じ会社でありながら全く異なる環境に怒りをおぼえながら突進する物語「総務部は女房」。
同い年であり、しかも上司として女性部長を迎えることになった部次長の物語「ボス」などなど。
いずれも会社でサラリーマンとして勤めていれば、一度や二度ならずとも遭遇する話ばかりである。
肩の凝らない、今の日本社会における「会社員」そのものが描かれている。
等身大のサラリーマン物語である。
[収録作品名]◇マドンナ ◇ダンス ◇総務部は女房 ◇ボス ◇パティオ
(2002.10.25初版発行)