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新潮社、1400円、短編連作ミステリー、『新潮エンターテインメント倶楽部SS』。
おなじみ女性刑事、音道貴子が登場する短編連作集。
警視庁第三機動捜査隊員である、彼女の「非日常的」な日常を描いた作品。
過去の事件(前作長編ミステリー『鎖』)がもたらした、精神的打撃から立ち直るきっかけとなる事件や、病んだ都会が生みだすやりきれない事件等々、6編収録。
中でも、音道刑事の先輩である、添田知世の家庭崩壊を描いた「聖夜まで」は読み進むに従って、息が詰まり救われない。
色濃く世相を反映している点でも、うなづける。
どの作品も、警察官といえども、恐怖も自信喪失も怒りも悲しみも併せ持つ、一人の人間であることが再認識できるものばかり。
余談だが、音道貴子シリーズは、長編→短編→長編→短編・・・といった流れなのだろうか。(2001.10.25読了)
新潮社、2200円、長編ミステリー、『新潮ミステリ倶楽部』。
1996年に直木賞を受賞した「凍える牙」で登場した女性刑事、音道貴子が主人公。
続編というべきか、シリーズ物というべきなのか!?
武蔵村山市で4人もの人間が殺されるという、大量殺人事件が発生—特別捜査本部が設置されることになった。
警視庁刑事部で機動捜査隊に所属する、音道貴子は、指定捜査員として特別捜査本部に派遣され、警視庁刑事部捜査一課に所属する、星野警部補とチームを組んで捜査にあたることになった。
大量殺人事件ということもあり、単独犯ではなく、複数犯の可能性からも事件解決は時間の問題と思われていたのだが、事件は思った以上に進展がなく、完全に膠着状態に陥ってしまう。
重苦しい捜査が続く中、貴子は相方の星野に交際を申し込まれるが、拒絶する。
その日から、相方とのチームプレーがぎくしゃくした関係になり、必ず2名一組で行動しなければならないのに、星野とは別行動の単独捜査をする羽目になってしまう。
捜査で赴いた阿佐谷で、貴子が以前手がけたひったくり事件で被害者だった女性、中田加恵子に出会う。
彼女に勧められるままに、ジュースを飲んだ貴子が気がついたときは、闇の中・・・しかも、がんじがらめに鎖で拘束されていたのだった。
逃げることも不可能、自分が何処にいるのかさえもわからない。
しかも、周りは追いつめられた敵ばかり・・・。
そんな絶体絶命の危機の中、貴子は果たして助かるのだろうか!?
数多い乃南アサさんの作品群の中で、読み応えがあるのは、この音道貴子という女性刑事が主人公の作品。
今回も、前作『凍てついた牙』同様、スリリングな展開、きめ細かな心情描写などが堪能できる。
幻冬舎、1800円、長編ミステリー。
東京オリンピックの年、藤島萄子は大恋愛の末、結ばれた奥田勝との結婚式を間近に控え、幸せに包まれていた。
社長令嬢である萄子と、警察官の勝との結婚は、両親からも反対されたり、勝の上司である韮山刑事の娘のぶ子との結婚問題など、さまざまな難関を越えてのゴールインだった。
挙式をあと1ヶ月半後に控えたある日、突然勝から萄子に電話がかかってきた。
しかもいつもの勝とは明らかに様子が異なり、「萄子—ごめん。もう会えない」という言葉だけを残し、勝は失踪してしまう。
同じ頃、韮山刑事の一人娘であるのぶ子が他殺体で発見され、その現場には勝の遺留品が残され、重要参考人と指名手配されてしまう。
勝の無実を信じる萄子は、些細なてがかりにすがるように、川崎・熱海・焼津・筑豊田川・大阪・郡山、宮古島と勝を追い求めていくが・・・。
萄子の勝を想う切ないほどの気持ちが、丹念に描かれており、一見華奢な萄子の芯の強さが光る。
それにしても、勝という人物の救いのない人生があまりにも哀しい。
もし私が萄子の立場だったら—と、思わず感情移入してしまいそうなくらい、女性心理の描写がきめ細やかな作品。
新潮社、新潮エンターテインメント倶楽部SS、1400円、 連作短篇集。
ご存じ音道貴子刑事シリーズ。
巡査部長に昇進した音道刑事は、警視庁第三機動捜査隊から隅田川東署に異動。
下町情緒のあふれる町で、個性派の同僚たちと共に、取り組む事件の数々を収録した、人気シリーズ第3弾。
また、かつての職場で相棒を組んでいた滝沢刑事との思いがけない関わりを描く短篇もあり、その後の貴子が描かれ興味深い。
音道刑事だって、いつも大きな事件に関わっているわけじゃない。
今回のような日々の小事件を追っているほうが、きっとずっと多いのだ— というわけで、音道刑事小事件(もしくは日常事件簿)シリーズとでもいえようか。
[収録作品名]◇その夜の二人 ◇残りの春 ◇木綿の部屋 ◇嗤う闇
(2004.3.20初版発行)
双葉文庫、上下巻、各780円。
風紋〜晩鐘と続く、超大作。
事件あるいは事故などで、「被害にあった人々」は必ず存在する。
本書では、その「被害にあった人々」—当事者ではなく、被害者に近しい人々が、事件あるいは事故によって、どのような影響を受けていくのかを描いたものである。
本書の主人公、高校生の高浜真裕子は、最愛の母を姉の担任教師だった松永先生に殺害されてしまう。
しかも母は、松永先生と不倫の関係にあったというのだ。
母の死が受け入れられない真裕子。
家庭内暴力を繰り返す姉。
家庭を顧みず、ゴルフや浮気で家に帰らない父。
家庭崩壊のただ中で、真裕子が受け止めねばならなかった母の隠された事実とは…。
一方の殺人犯の妻である、松永香織にもスポットがあたる。
若くして実家の援助もありながら、都内で一戸建てをかまえ、二人の子どもと愛する夫の幸せな暮らしは、夫の事件によって、あっという間に崩壊してしまう。
「幸せな妻」から、一転して「殺人犯の妻」へと、奈落の底へ突き落とされた香織の歩む人生とは…。
二人の被害者側と、加害者側の当事者に近しい二人を対比させて描く、壮大な物語である。
が、本書「風紋」も上下巻、続く「晩鐘」も分厚い上下巻なのだが、少々まわりくどい嫌いもある。
もう少し、スリムにも描けるのでは、とやや間延びした印象が残念である。
(1994.04初版発行)
双葉社、上下巻、各1800円+税。
『風紋 上下』の続編。
風紋の七年後の物語、である。
風紋で高校二年の多感な時期に、母親を殺された真裕子と、その事件を追いつつも、次第に真裕子に惹かれ始めた新聞記者建部とを縦軸に、もう一方の加害者側であった松永家のその後が描かれている。
当時、幼かった松永家の子どもたちは、父親の事件を知らされず、母親の実家に預けられ、成長していった。
小学生になった大輔は、母親とも知らずに、派手な叔母としか認識していなかった香織と、東京で暮らし始めるのだが…。
ひとつの事件が蒔いた、不幸な連鎖の数々。
これほどまでに、事件が及ぼす影響をとことん突き詰めて描いた作品はあっただろうか?
そういった観点でも、なかなか興味深く読むことができた。
確かに日常茶飯事のように、各地で日々事件は起こっているのだが、「起こった」時点での報道はあっても、その後については一切語られてはいないのが現状である。
しかも現在の司法制度では、特に被害者側(特に被害者の家族)への配慮が決定的に欠けているように感じる。
さまざまな問題を喚起させるに充分な読み応えのある作品だった。
(2003.5.20初版発行)
朝日新聞社、1575円。
親からも見捨てられ、自分の思うような人生をおくることができず、無差別に強盗や通り魔を繰り返しながら、何処へ行くあてもなく流れるままに生きてきた翔人。
そんな無軌道な若者が、ヒッチハイクの途中で襲ったトラックから、投げ出され、行き着いた先で、怪我をした老婆を助けることになる。
成り行きからその老婆の家に住み込んだ翔人は、近所のシゲ爺の仕事を手伝ったり、祭りの準備にかりだされながらも、村の暮らしに馴染んでいくのだが…。
投げやりで、人を人とも思わない無軌道ぶりな翔人に、現代社会が抱える闇をみる想いがする。
そんな翔人が、少しずつ少しずつ、村の人々の温かい心に触れ、頑なだった心が解けていくさまが描かれている。
90才にも手が届こうとする老婆、存在感のあるシゲ爺などなど、登場人物もみな、どのような人生を生ききってきたのか、さほど分厚い本ではないものの、しっかりと描ききれている。
人生につまづいたとき、自分の存在意義を見直したいとき、自分の帰るべき場所を探しているとき、人生に嫌気がさしているとき、自暴自棄に陥っているとき、そして「それでもやっぱり人生っていいな」と思いたいときに是非読んでみたい。
ラストまで、しっかりと感動がぎゅっとつまった1冊。
(2004.11初版発行)