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角川書店、1800円。
高木亜紀子は、突然訪れた「吉田」と名乗る見知らぬ女性に襲われる。
意識が戻ったときには、その女性—野田光代というのが本名だったのだが—と、意識が入れ替わってしまう。
なぜ?どうして?なぜわたしが?どうしてわたしが?…動転した亜紀子は、被害者としてより、加害者として自分が逃げる道を選択する。
まずは、加害者である野田光代の家に行き、「高木亜紀子」との接点をさがし、魂と魂の入れ替えが行われた信じられない現象に立ち向かおうとするのだが…。
魂の入れ替わる話は、以前海外小説でも読んだが、まず大体「なぜこんな事態に?わたしは一体どうなってしまったの?」的なパニック場面で始まることが多い。
この小説も同様であるが、とにかくテンポがよく、しかも亜紀子の心情も丁寧に描かれており、読み進む内に、どんどん話に引き込まれていく。
亜紀子が光代の家に向かい、さまざまな問題にぶつかりながらも、最終的には自分自身を見つめ直していく過程も好感が持てる。
角川春樹事務所、ハルキ・ノベルス、819円+税。
ステンドグラス作家羽田野祥子は、妹とふたりで小さなケーキ屋を持とうと夢見ていた。
しかしその夢は無惨にも打ち砕かれる—妹が森嶋吾郎という男にだまされ、自殺してしまったからだ。
森嶋を殺したい!と思いつめる祥子は、「報復代行業」の噂を聞きつけ、地下のバーに行ってみるが、いたたまれずに逃げ出してしまう。
そんな祥子の前に、ある日「アイ」と名乗る謎の男が現れ、祥子の代わりに森嶋を殺してあげましょうと告げられる。
1週間後、その男が予告したとおり、森嶋は何者かの手によって殺されてしまう。
翌日、祥子は隣に住むさほど親しくもない主婦、宮脇まゆみから、同じように殺し屋を紹介して欲しいと頼まれるのだが…。
1冊で2度おいしい!——報復代行業という設定もさることながら、祥子や宮脇まゆみの心理状態、二重三重にはりめぐらされた伏線も見事。
続編ってあるのだろうか?できればシリーズで読んでみたいと思うのだが。
新芸術社、1300円、長編ミステリー。
望月祥子は老朽化したアパートの建て替えのため、大学以来7年間住み慣れたアパートを立ち退かなくてはならなくなった。
そんな祥子と同じアパートに住む、仲良しの矢花美加に一緒に住まないかと誘われる。
美加が不動産屋に当たって見つけだした物件は、広い敷地にあるお屋敷の離れというこの上ない好条件のものだった。
大家は、62歳の初老の男性—しかも妻と息子を事故で亡くし、資産家でありながらひとりでお屋敷に住んでいたのだ。
快適な美加との同居生活が始まったのも束の間、3日目に美加は交通事故であっけなく亡くなってしまう。
ルームメイトを偲ぶため、美加の部屋に立ち入った祥子は、そこで思いもかけぬ発見をする。
それは、美加がひそかに書きためておいた、小説の原稿だったのだが…。
悪女、娼婦性、魔性の女…望月祥子が辿る変遷は、さまざまな表情を見せていく。
祥子の「悪女度」って、自覚がないだけに凄味があまり感じられない。
運命に流されつつ、自分だけはしっかり岸辺にたどりついた、といった印象を受ける。
どうせならもっと壮絶なまでの悪女を演じて欲しいと思うのは、お門違いか!?
ちょっと中途半端な印象を受けた1冊。
NHK出版、1200円+税、ミステリーホラー短編17編収録。
雑誌『H2O』(NHK出版)に連載していた短編8話と、書き下ろし短編9話を収録。
いずれも原稿用紙25枚ほどの小作品だが、女性の心理を巧に描き、ミステリー色の濃いモノ、ホラー色の強いモノ、両方味わえるモノなどなど、多彩な作品が味わえる。
短編でありながら、どの作品も十分読み応えがある。
[収録作品名]◇ホーム・パーティ ◇紫陽花 ◇妻の声 ◇花火 ◇飾りたかった絵 ◇あなたに借りた本 ◇クリスマス・イブ
◇着物の魔術 ◇冬の観覧車 ◇返す女 ◇シンクロニシティ ◇小さな耳 ◇ずっとそばにいて ◇歯と指 ◇尽くす女 ◇凍った約束 ◇注意に注意
発行ホリプロ、 発売湘南出版センター、1100円、長編ミステリー。
「グルメライター水沢風味子・周富徳の殺人レシピ」がサブタイトル。
グルメライターの水沢風味子は、グルメ情報誌に執筆するかたわら、さまざまな店で大食い・早食いにも挑戦していた。
そんなある日、TVのワイドショーから「中華名人周富徳に挑戦」という出演以来を請ける。
初のテレビ出演でもあり、緊張のため周富徳と対決した野菜炒めは塩と砂糖を間違えるというさんざんな結果に終わってしまった。
後日そのTV番組を見ていた、毒舌料理評論家の門野哲哉に風味子はさんざんこきおろされてしまう。
しかもその門野が謎の死を遂げてしまうから、風味子の周辺はいきなりあわただしいものになってしまうのだが・・・。
「食」をテーマにしたミステリーだけに、塩・砂糖・食品サンプル・キッチンコーディネーター・栄養士などなど、食に関する小道具や設定が数多く登場する。
講談社、1800円+税別、長編。
夫の暴力に脅える、柏木由布子は、宇都宮の実家から帰る新幹線の車中で、ふとした偶然から拳銃を手に入れる。
夫に立ち向かうための勇気が、拳銃を手にすることでわきあがった由布子だったが、結局夫の暴力に恐怖を感じ、家出してしまう。
行くあてのない由布子に声をかけたのは、以前フィットネスクラブで見かけたことのある、長身の女性、逸美だった。
拳銃を拾ったことを逸美に告白した由布子は、その拳銃を譲って欲しいと頼まれるのだが…。
一丁の拳銃を巡って、家庭内暴力・裁きのない交通事故加害者への復讐・警察の音楽隊などが絡み合っていく。
主人公の由布子に多少の哀れみを感じるものの、恋愛や結婚観に共感できず、ましてその結末に至っては、あまりの暴走ぶりに無節操さすら感じる。
昔のふった男の元に都合良く現れるラストは、白け気味で面白みが半減してしまった。
双葉社、1800円、長編ミステリー。
夏休みに実家にも帰らず、アパートでレポートを作成していた女子大生の鈴木かおるは、ある日泥棒に入られ誤って殺してしまう。
自首すべきか、死体を遺棄するか、迷った結果、完全殺人をもくろむことになる。
一方、サイコ・セラピスト(心理療法士)として、民間カウンセリング・ルーム「すぺーすえん」に勤務する須山久美子は、ある日自宅に唐突な1本の電話—「わたし、人を殺してしまったんです。」—が、かかってきてしまう。
職業柄、気になって仕方ない久美子は、自分の患者や思い当たる人物がいないかどうか、調査を始めるのだが。
過去から現在へと、さまざまな事件や場面、人物が、バラバラに登場するが、最後に全てが見事につながる。
人物や状況など、感動するとか、グイグイ引き込まれるといったものではないのだが、ストーリー的に斬新で、思わずうなってしまう程、巧いと思った。
いい意味で作者に「やられた!」と、思わせられた1冊。
実業之日本社、1700円+税、長篇ミステリー。
書道教室を自宅で開いている池畑弘子は、結婚後わずか半年後に夫が突然失踪してしまう。
民法七百七十条一項三号によると、配偶者の生死が3年以上明らかでない場合、裁判所に離婚を申し出ることができるのだ。
弘子は夫を待つ身でありながら、書道教室に通う馬淵淳一の父親・信久に好意を寄せ、いつしか再婚を願うようになっていた。
そんな弘子のもとに、匿名で「ご主人は生きています」という手紙や、無言電話がかかってくるようになった。
真相を究明しようと警察にも黙って行動を開始した弘子をまちうけていたものとは・・・。
最初は面白そうな設定だな、と思い読んでいたのだが、正直なところ、読む進めていく内に、あまりにも偶然が重なる出来事や、安易ともうつる設定、登場人物にいたるまで、まるでTVのワイドショーを見ているようで物足りなさを感じる。