〈永井 するみ〉
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双葉社、1800円+税。
2000年問題を絡めて、コンピューター会社勤務の真野馨が上司であり、不倫とはいえ心から愛していた、久武の殺害事件真相を追う物語である。
初めて、永井するみさんの著作を読んだが、素直に面白かった。
女性ならではの細やかな心理描写も、くどくなく、ちょうどいい。
略歴をみて、コンピューター会社勤務を経て、とあり、作中のコンピューターに関する記述も、非常にわかりやすく簡潔であったことに納得。
事件の被害者である久武の、私的な部分での不幸がせつない。
完璧なまでの仕事ぶり、周囲への気配り、馨への距離をおきながらも愛しく思っていたことが感じられるだけに、物語とはいえ惜しいと思う。
どちらかといえば、「不倫」については問答無用で共感できない私が、今回は珍しく、つい主人公馨を応援したくなってしまった。
馨と久武の仕事に対する姿勢ゆえだろうか?
(1999.3.10初版発行)
双葉社、1890円。
日常生活に潜む、静かな殺意を描く、短篇集。
一見、幸せそうな夫婦や家族を狂わす、嫉妬や狂気を描いたものばかりで、読んでいてもザワザワッと背中のあたりが寒くなる気がした。
人間の小さな歯車が狂い始めたときの怖さが充分堪能できる。
短篇だからこそ、また身近な殺意ゆえに恐怖が増幅するのかもしれない。
表紙絵にもその恐怖感が存分に表現されている。
[収録作品]
◇隣人 ◇伴走者 ◇風の墓 ◇洗足の家 ◇至福の時 ◇雪模様
(2001.7初版発行)
新潮社、1680円。
第1回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。
富山県の水田地帯で日本ではありえない、害虫「T型トビイロウンカ」が突然異常発生する。
食品メーカー勤務の陶部映美は、その地域の有機米を使った商品を企画担当していたため、急遽実状を調査し始める。
一方、私生活でも久々にコンタクトをとった友人のツアーコンダクター井上耀子の不可解な死を知らされる。
害虫騒動と、何の関連もない友人の自殺の謎を追う映美を待ち受けていた衝撃の事実とは?
「米」・「害虫」といった、小説には珍しい題材だが、非常にテンポよく読み進めていける。
害虫などの説明も、偏った専門的な難しさではなく、平易だが、わかりやすいので、非常にリアルに感じられる。
私的感想として、有機米栽培を率先していた人物に好感がもてないのは、いささか残念ではあるが、こういった農業系ミステリーをもっと読んでみたい。
(1997.1初版発行)