〈香咲 弥須子〉
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講談社、1500円+税。
副題は「Miracle Cats in New York」。
ニューヨークはイーストビレッジで、独り暮らしの著者にとって家族とも言うべき3匹の猫たち。
お父さん猫のイチ、お母さん猫のサヨコ、その娘のチャチャ。
恋人から譲り受けた猫たちは、著者にとって、幸せを象徴するかのような存在でもあった。
そんなある日、イチが体調の変化を訴える—診断の結果、長くてもあと1〜2年の命と宣告される。
平凡でも穏やかな温もりに満ちあふれた日々、自分の全てを受け入れてくれる寛容な猫たち…彼ら彼女らには、しっぽの先まで感情があり、命が宿っているのだ。
著者は必死で、イチを見守り続ける。
その姿は稲葉真弓「猫の満ちる日」あるいは「ミーのいない朝」にも共通する。
この世の全てに命があり、生きとし生けるもの全てに平等に訪れる死—愛するものの尊厳ある死を全うすべく、著者は全神経を注いでいくラストも感動的。
だが何といっても、全編を通じて、イチという猫の存在感、優しさ、穏やかさ、寛容さを愛したい。
まさしく小さなMiracleな神そのもののように思えてならない。
[収録章]◇1994年春—裸の自分にただいまを言うときが、ふたたび訪れていた。 ◇1995年夏—ほんとうのことはここにある。私の中に、この部屋に、樹に、猫にあるにちがいない。 ◇1996年秋—こんにちは。その目は月に挨拶を送っているかのようだった。きみはこんなところにもいたの。 ◇1998年初春—しっぽの先に、力が増した気がした。泣かないで。しっぽが答えるのがはっきりわかった。 ◇1998年夏—イチの樹が、変わるものなど何もないのだと、語りかけてくれる。
(2000.1.24初版発行)