文藝春秋、1524円+税。 第17回サントリーミステリー大賞&読者賞のダブル受賞作。 旅行代理店営業の長瀬は、顧客であるジュエリー・ナカニシの社長から、個人的依頼を受ける。 16歳になる孫の添乗員として、ベトナム旅行をプランして欲しいというものだった。 孫・慎一郎のベトナム行きの目的—それは、四年前ベトナム出張中に失踪した父親を捜すことだった。 しかし個人旅行にもかかわらず、ベトナム行きは何者かの手によって、次々と邪魔されるハメになる。 危険を察した長瀬は、現地でタクシー運転手とコールガールの協力を得ながら、慎一郎とともに父親捜しに奔走するのだが…。 きわめてテンポのよいストーリー展開は、混沌としたベトナム情緒も相まって、充分楽しめる。 それにしても旅行代理店の一社員でありながら、まるで探偵か警察官を思わせるような働きぶりがすごい。 16歳という設定の慎一郎も、何と大人びて賢いのだろうかと感心してしまう。 著者が旅行代理店に勤めながら、2年かかって書き上げた作品とのこと。 現場描写が結構リアルなのも頷ける。 (2000.4.30初版発行)
実業之日本社、1600円+税。 大きく社会から逸脱した行為—殺人を犯した男と女の、堕落と再生を描いた作品。 普通の会社員であった恭一は、同僚から拝まれるように頼まれ、ヤクザと交渉することになった。 そこにいたのは以前から気になっていた、街でいつも見かける女と、そのヒモともいうべき男だった。 ある一点を超えたとき、普通の会社員から大きく逸脱する男と、これまでの人生で坂道を転げるように堕落した女との、世界がはじまったのだが…。 あっという間に読み終えたのだが、やはり今どきはこんな風に突如「キレル」、もしくは「豹変」する人間は多いのだろうか?昨今のニュースを見ていると、決してこれは物語世界だけのものとは到底思えない。 救いのない展開だと思ったのだが、最後的には少々ホッとできたのも事実である。 (2004.12.15初版発行)