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講談社、1900円+税。
秋ふかい、とある日、山間の村にあるプラネタリウムにふたごの赤ん坊が捨てられていた。
解説員の泣き男に引き取られた二人は、彗星をめぐる解説のさなかであったことからテンペルとタットルと名付けられ、すくすくと育っていった。
やがて一人は、村で興行していた魔術師テオ一座の元で手品師に、もう一人は育った村で郵便配達夫とプラネタリウムの解説員の両方をこなすようになる。
全編を通じて、不可思議で、やさしい心に包まれる本。
絵本でもないのに、ページをめくるたびに、銀色の髪がさらさら揺れるふたごの姿や、いつの日も穏やかな口調で宇宙の星々を語る泣き男の声、テオ一座の見事な手品の数々が目に浮かぶようだ。
テンペルのますます冴えわたる手品の数々、タットルと彼が運ぶ郵便でつながれた村はずれの老女とのエピソード、鉄道王のパーティでの事件、北の山の熊狩りの話、栓ぬきという名の元スリの少年が引き金となった事件…。
さまざまな事件やエピソードが静かに重なっていくうちに、物語世界にどっぷり嵌っていく。
哀しさと優しさと温かさ、不思議な世界が本の中の空間に、確かに存在する、そんな1冊。
ポプラ社、1300円+税。画・植田真。
絵描きの植田さんは、二年前火事で最愛の人と音をいっぺんに失ってしまう。
画材一式とわずかな着替えだけをたずさえ、都会を遠く離れた高原の一軒家に移り住んだ。
そこには湖があり、夏は釣船やボートでにぎわい、冬は一転し真っ白な氷雪だけの世界となる場所だった。
植田さんと、ひげ男のオシダさん、隣の山荘に引っ越してきた林イルマ・メリ親子、定食屋のおかみさんたちとの心温まる交流を描く、小さな作品。
真っ白な氷雪の世界をイメージした表紙絵から、後半、植田さんやメリを囲む人々、森の動植物たちが、いっせいに「美しい色彩」で表現されたシーンは息をのむ美しさである。
スローにじんわりと温まるかのような感動を味わえる1冊。
(2003.12.10初版発行)