〈石黒　謙吾〉

文藝春秋、１４２９円＋税、写真/秋元良平、文/石黒謙吾氏。
２００３年夏にＮＨＫでドラマ化。
秋元良平氏の写真集「盲導犬になったクイール」に出会って、この本が誕生した。
血統が重んじられる盲導犬の世界で、普通の家庭犬であるツキスミを母に生まれた、一頭のラブラドール・レトリーバー「クイール」の一生が写真をふんだんに盛り込みながら紹介されている。
生みの親水戸さん宅から、育ての親パピーーウィーカー仁井さん宅へ、やがて一人前の盲導犬になるべく訓練センターへ。
多和田さんの指導の元、立派に盲導犬として成長したクイールは、パートナーとなる渡辺さんと巡り会う。
渡辺さんとの生活は、彼が病に倒れるまでのわずか２年に過ぎなかったが、クイールは真の盲導犬へと成長していく。
その後はデモンストレーション犬として、活躍の後、パピーーウィーカーだった仁井さんに最後は引き取られ、余生を過ごすことになる。
著者の石黒氏は本物のクイールには結局会えず、彼に関係した方々に丁寧な取材をした上で、１冊の本として完成させた。
まるでクイールの濡れたような瞳そのもののような、静かで温かな世界が広がっている。
読み終えた後、静かな余韻の中、涙がこぼれて仕方なかった。