1960年東京生まれ。成蹊大学経済学部卒業後、広告制作会社などを経て、フリーのコピーライターに。1997年「池袋ウエストゲートパーク」で第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞。1998年9月に同名の連作短篇小説で作家としてデビュー。「4TEEN」で第129回直木賞受賞。時代を捉える鋭い視点と、若者たちのみずみずしい感性を描き、注目を浴びる。作者の温かさと、爽やかな作風も人気を呼んでいる。 |
文藝春秋、1619円+税。
池袋駅東口・西口におけるささやかな事件から、それぞれのストリートの派閥戦争まで、池袋生まれの池袋育ちの生粋の池袋っ子である主人公が、鮮やかに、あるいは傷だらけになりながら解決していく短編連作集。
主人公の淡々とした語り口が、心地よい。
読後感が爽やかな一冊。
この本を読んでから、よりいっそう池袋の街が生き生きして見えたのも嬉しい。
2000年4月からTVドラマ化もされた作品。
[収録作品名]◇池袋ウエストゲートパーク ◇エキサイタブルボーイ ◇オアシスの恋人 ◇サンシャイン通りの内戦
(1998.9.30初版発行)
集英社、1600円。
掛井純一はある日、自分の死体がさびしい山中に埋められようとする現場に遭遇する。
何故?僕自身は殺されてしまったのか?・・・何者かに殺害され、幽霊となってしまった純一は、光の中で自分の短かった人生をフラッシュバックしていく。
しかし、どうしても「何故殺されたのか?しかも、その犯人は誰なのか?」がわからない。
殺される直前から人生最後の2年間が、どうしても思い出せない!
そんな自分の空白の2年間をさぐり、自分を殺した犯人探しを始めたのだったが・・・。
純一が生きていた頃のこと、そして死んでしまったあとの(?)自分自身の人生の再生が心に沁みてくる。
読むほどに心が切なくなってくる、そんな優しさにあふれたミステリー。
私なら「生きているとき」の自分の人生を、死後見つめ直したときはどうなんだろう?と、思わず考えてしまった作品。
それにしても石田氏の作品中の主人公は、何故いつもこんなに優しさにあふれているんでしょうね!
文藝春秋、1619円+税、池袋ウエストゲートパークシリーズ第2作。
今回も、池袋駅西口を根城に、主人公真島真(マジマ マコト)が、さまざまな事件を解決していく短編連作集。
マコトは高校卒業後、池袋西一番街で母親が営む果物屋を手伝うかたわらで、ストリートファッション誌で連載コラムを担当している。
しかも、また池袋周辺で日々発生する、トラブルや事件を解決すべく自警団的な顔も持っている。
書き下ろしを含む4編の短編は、爽やか&ホロ苦系の青春ミステリーなのだが、気になるのは余りにも都合が良すぎるのではないか?という点。
事件が発生すると、警察が登場する以前に、池袋で3本の指に入る暴力団ですら、マコトに捜査を依頼すること。
池袋でチームを組む、若者の組織Gボーイズをすぐにアテにすること。
警察にも知り合い刑事がいて情報を簡単に収集できたり、また池袋警察署署長とも年の離れた幼なじみで、最終的にはここでも融通がきいてしまうこと。
数え上げたら、キリがない。
だから、どんなに手強い事件が起きようとも、マコト自身が絶体絶命のピンチになったり、さほど地道に調査せずとも、事件が難なく解決していくような、安易な印象が残ってしまう。
作中、何度もGボーイズの王様であるタカシにも「マコトは甘い」と言われているが、私自身は作品そのものが甘いような気がするんだけどなぁ。
[収録作品名]◇妖精の庭 ◇少年計数機 ◇銀十字 ◇水の中の目
(2000.6.20初版発行)
徳間書店、1600円、池袋ウエストゲートパークシリーズ外伝。
売れない映像ディレクター、小峰渉は池袋最大のカジノバー『セブンライブズ』のあがりを狂言強盗で、現金をまるまる強奪する計画の一味になる。
しかし、報酬を受け取る段になって、仲間から出た裏切り者が全額奪って逃げてしまう。
しかも裏切り者はセブンライブズの経営者である、羽沢系氷高組に強盗仲間のプロフィールを全てばらして、逃げるという手の込みようだった。
一千万の報酬が夢と消え、しかも氷高組に拘束された小峰は、絶体絶命の窮地に陥る。
ここで一生を棒に振るか、それとも大逆転の大博打を打つか・・・の瀬戸際で、小峰はヤクザ相手に「裏切り者を必ず探してみせる」と提案。
組長はその提案を受け、小峰に組の出世頭、サルこと斉藤富士男をつけさせる。
期限は8月いっぱい・・・そのわずかな時間の中で、小峰はサルとともに池袋の街を探し回ることになるが——。
池袋ウエストゲートパークの外伝でもあり、本編の主人公であるマコトは時折、名前で出演するのみ。
もう一方の華やかな脇役、Gボーイズの王様であるタカシの存在はここでも健在。
今回は小峰とサルの魅力的な人物設定が、あっという間に読ませる1冊。
新潮社、1400円。短編連作集。第129回直木賞受賞作。
東京月島の14歳の中学生4人の織りなす青春ストーリー。
成績優秀で頭のいいジュン、お金持ちだけど難病の早老症を患っているナオト、大柄で大食漢のダイ、ごくごく平凡なテツロー・・・リアルに「今どき」描写を背景に、中学生の友情・恋愛・セックスなどを語り、時に優しく、時にいたわり合い、時に傷つきながらも、子供と大人の境目のような微妙な年代を爽やかに描いている。
それにしても、石田氏の著書はどれも嫌みがない。
優しくって、切なくて、程良く甘くて瑞々しい。
どの作品にも共通しているが、バランスのとれた感覚があふれた絶妙な描写が心憎い。
早老症で入院しているナオトへの贈り物を描く「びっくりプレゼント」、拒食と過食を繰り返す同級生の女子中学生を描く「月の草」、14歳は空も飛べる!「飛ぶ少年」他、8篇収録。
[収録作品名]◇びっくりプレゼント ◇月の草 ◇飛ぶ少年 ◇十四歳の情事 ◇大華火の夜に ◇ぼくたちがセックスについて話すこと ◇空色の自転車 ◇十五歳への旅
(2003.5.20初版発行)
文藝春秋、1333円+税。
大学は出たけれど、目下就職浪人中の白戸則道は、あやしげな老人小塚泰造のもとで働くことになる。
小塚は非公認の投資金融業を営んでおり、そこでは毎日朝刊を隅々まで読むこと、ある都市銀行の終値を日々チェックすること、毎日一つずつ小塚に質問すること…が仕事として割り当てられる。
そんな日々を過ごす中で、則道は否が応にもマーケット感覚が磨かれることになる。
やがて東京町屋の駅前にある預金量第三位の都市銀行に対して、街の人々を始め、則道と小塚の知略を尽くした「5週間戦争」—秋のディール」—が始まったのだが…。
軽快なテンポで描かれた経済クライムサスペンス。
最初のゆるやかな流れから後半、怒濤のように手に汗握る展開へと、一気に読んでしまった。
確かにマーケットも人生も大波小波の連続である。
自分自身の運命についても、同様のことがあてはまる。
値動き感覚を研ぎ澄ましておくのも悪くない…という作中の言葉に妙に共感してしまった。
2002夏にフジTV系列で「ビックマネー!」(長瀬智也主演)というタイトルで放映されている。
(2001.8.30初版発行)
文藝春秋、1619円+税。
好評の池袋ウエストゲートパークシリーズ第三弾。
「オール讀物」掲載3篇と、書き下ろし1篇の計4篇からなる短編集。
池袋西一番街の果物屋の息子である、真島誠(通称マコト)は、池袋の街をこよなく愛する若者であり、トラブルシューターでもある。
彼のもとには、Gボーイズの王様タカシをはじめ、さまざまな人間から、依頼が舞い込む。
事件の糸口を見つけ、解決策を練るのがマコトの領分だ。
あとはGボーイズや、マコトがこの街で培った人脈が何とかしてくれる。
みんなも、この池袋が大好きだから、守りたいんだ。
マコトの軽妙な語り口は、情景はもちろんのこと、その時々の登場人物が抱えるさまざまな思いも、見事にあぶりだしてくれる。
やはり私にとって、お気に入りのシリーズのひとつである位置は不動だ。
[収録作品名]◇骨音 ◇西一番街テイクアウト ◇キミドリの王様 ◆西口ミッドサマー狂乱(レイヴ)
集英社、短篇10編収録。
著者初の短篇集であり、初めての恋愛作品集でもある。
1999年11月号から2002年3月号まで「小説すばる」に掲載されたもの。
「今」を生きる男女の「恋愛」をテーマに描かれた作品は、著者自身もあとがきで述べているように、どれも心地よい余韻が残るものばかりだ。
主人公たちも、場面も、恋愛のパターンも皆異なるのに、どれもひどく優しい気分にさせてくれる。
私がまだ独身だったら、何度でもこんな恋ならしてみたいと思うような作品でもある。
中でも、心に残ったのは「真珠のコップ」、「ローマンホリディ」の2作。
七時間もかけてさようならをする男女を描いた表題作「スリーグッドバイ」も忘れがたい。
[収録作品名]◇泣かない ◇十五分 ◇You look good to me ◇フリフリ ◇真珠のコップ ◇夢のキャッチャー ◇ローマンホリディ ◇ハートレス ◇線のよろこび ◇スローグッドバイ
講談社 1600円+税、短篇7作収録。
「小説現代」に掲載された短篇6作と、書き下ろし短篇1作を収録したもの。
借金・売春・詐欺・殺人・ホームレス・・・形はさまざまだが、いずれも人生に失敗し、とことん追いつめられた人々の「LAST」が描かれている。
これまでの石田氏に共通する「さわやかな読後感」はどこにもなく、焦り・恐怖・驚愕といった、石田ワールドには異質な世界が広がっている。
そのぶん、より現実的で、病んだ社会を鏡に映しているような不気味さ、あるいはタブロイド誌を読んでいるような錯覚を覚える。
[収録作品]◇LAST RIDE(ラストライド) ◇LAST JOB(ラストジョブ) ◇LAST CALL(ラストコール) ◇LAST HOME(ラストホーム) ◇LAST DRAW(ラストドロー) ◇LAST SHOOT(ラストシュート) ◆LAST BATTLE(ラストバトル)
文藝春秋、1524円+税、短篇集。
人気の「ウエストゲートパーク」シリーズ第4弾。
池袋西口にあるウエストゲートパークを根城に、池袋の街で起こる、あらゆるトラブルを請け負う、真島誠ことマコトが活躍する。
今回もおなじみのストリートギャング「Gボーイズ」のキングことタカシ、氷高組本部長代行のサルも登場。
おなじみの街並み、おなじみの顔ぶれが揃った、シリーズ第4弾だが、今回はいつも以上に、胸が痛くなるような事件が多かったように感じた。…
底の見えない不況のせいだろうか?
しかもこれまでは「池袋限定」といった感が強かったのだが、本書表題作「電子の星」では行方不明になった友人を探しに山形から上京してきたテルによって「地方の崩壊」も生々しく語られている。
本シリーズを私が毎回欠かさず読んでいるのは、「今、そのとき」を感じることができるから、というのも理由のひとつにあげられる。
時代の流れに沿って、呼吸する小説…とでも云おうか。
だからこそ、あくまでも物語の中でありながら、現実社会の暗いニュースや世相を如実に反映する鏡のようなこのシリーズを読み続けているのだ。
そして石田氏の作品には、必ずきらりと光るもの、フッと優しくなれるもの、ピュアなものが潜んでいる。
その部分がどの作品にも共通する、石田氏の魅力なのだと思うのだ。
[収録作品]◇東口ラーメンライン ◇ワルツ・フォー・ベビー ◇黒いフードの夜 ◇電子の星
(2003.11.30初版発行)
集英社、1400円+税。
森中領ことリョウ—大学生であり、夜はバーテンダーのバイトをする、どこにでもいる普通の若者だった。
ある夜、ホストクラブに勤める友人のシンヤから、年上のとびっきりの女性を紹介される。
彼女—御堂静香から「あなたのセックスに値段をつけてあげる」と声をかけられる。
御堂静香の試験にすれすれで合格したリョウは、大学生とバーテンダーの他にもう一つの顔を持つことになる。
高級ホストクラブの男娼となったリョウが経験したもの…。
20歳の夏に、めくるめく性、孤独、愛、弱さ、秘密…さまざまな人間の最奥を垣間見たリョウが辿り着いたものとは…。
こういったテーマを扱うと、どうしてもどろどろした粘着性の濁ったものを想像しがちで(個人的に苦手なのだが)あるが、石田氏の手にかかると、不思議にさらさらした透明感のある物語へと変貌してしまう。
主人公のリョウは、漫画だが一条ゆかり『正しい恋愛のススメ』に登場する高校生竹田博明クンにも、ちょっぴり似ている気がする。
彼も同じ「愛を売る」男娼だったが、フツー的という設定がそうさせるのかもしれない。
(2001.7.10初版発行)
集英社、1500円+税、短篇集。
『スローグッドバイ』に続く、恋愛短篇集第2弾。
10篇の短いラブストーリーが収録されている。
同棲しながら、これまでの苦い恋愛経験から、お互いの所有権をはっきりさせるために、どんなものにも自分のイニシャルを いれるカップル「ふたりの名前」。
誰かの結婚式を成功させるために憧れだったウエディングプランナーになったのだが、実は自分の幸せに使うための時間が全然ないと嘆く「誰かのウエディング」。
突然失語症になった33歳の独身女性が主人公の「声を探しに 」 等々。
主に30代前半の女性たちにスポットをあて、描いた物語ばかりである。
20代のように、煌めくような恋でもない。
10代や20代のように、溌剌とした若さもない。
社会的にも、仕事でも、ある意味認められるにつれ、背負ったモノがどんどん重くなっていく世代—甘えも妥協もなく、厳しい現実が目の前にたちはだかっていく。
だけど、やはり一人の女でもある。
そんな狭間の微妙な30代の恋物語は、切なく、優しく、臆病 で、儚い。
だからこそ、物語であっても、妙に生々しく現実感を感じさせる。
30代の恋についついエールを贈りたくなってくる。
主人公達の恋の行方—その後が気になる1冊。
[収録作品名]◇ふたりの名前 ◇誰かのウエディング ◇十一月のつぼみ ◇声を探しに ◇昔のボーイフレンド ◇スローガール ◇1ポンドの悲しみ ◇デートは本屋で ◇秋の終わりの二週間 ◇スターティング・オーバー
(2004.3.10初版発行)
文藝春秋、1524円+税。
「少年A」が引き起こした酒鬼薔薇事件—1997年に起こった、その痛ましい事件を彷彿とさせる。
ジャガこと、三村幹生は中学二年生。
一つ年下の弟と、TVCMにも起用される可愛い小学生の妹がいる。
ある日、ジャガの住む街で恐ろしい事件が起きた。
妹と同級生の女の子が、何者かによって猟奇的に殺害されてしまう。
犯人は、ジャガの弟カズシ—彼は、弟の心の闇を探り、何が弟を事件に駆り立ててしまったのか、弟の心の内を理解したいと、自分なりに事件を調べ始めるのだが…。
周囲の厳しい目や、いじめに合いながらも、ジャガが辿りついた結論とは何か!?
非常に重いテーマを扱いながらも、根底に温かさとすがすがしささえ感じる。
殺人者の兄という、途方もない重荷を背負ったジャガの、真摯で真っ直ぐな精神力、優しさ、気高さには胸が打たれる。
ラストには、やや物足りなさもあるものの、読後感は満足。
(1999.5.10初版発行)
角川書店、1400円+税別、短篇集。
文句なく珠玉の短篇集です、この本は。
いきなり表題作の「約束」から、胸がいっぱいになってしまいました。
大好きだった親友が自分をかばって、目の前で殺された—こんな衝撃的な悲しみを背負ったカンタ君の痛みと悲しみが痛切に胸を打ちます。
他にも、父をなくし、突然耳さえも聞こえなくなった少年のお話「天国のベル」。
登校拒否に陥った少年と廃品回収のおじいさんとの心温まる交流を描く「夕日へ続く道」など、どの作品もずっしりと心に響く物語ばかりです。
泣きたいあなたも、泣けない君も、泣き虫な人も、そうでない人も皆に読んでもらいたい、そんな1冊です。
(2004.7.30初版発行)