〈伊坂 幸太郎〉
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新潮社、新潮ミステリー倶楽部、1700円+税。
第5回新潮ミステリー倶楽部受賞作。
コンビニで強盗未遂をしでかし、警察から逃げる途中で気を失った伊藤は、気がつくと見知らぬ島にいた。
江戸時代以来、鎖国を続けているという、その不思議な島—荻島—には、生まれてから一度も島の外に出たことのない人々と、何でも知っている喋るカカシが住んでいた。
島の住人たちから予言者として崇められている、喋るカカシ—優午—は、百年以上も前から、ある予言をしていた。
この島にたったひとつ欠けているものを、島の外から来た人間が持ってきてくれるという。
しかし未来を見通せるはずのカカシが殺されてしまうという、大事件が起こってしまう。
誰がカカシを殺したのか?
なぜ未来を見通せるカカシは、自分の死を阻止できなかったのか?
設定も登場人物も、とても不思議ワールドである。
それなのに妙に嘘っぽくなく、島もカカシも住人たちもイメージしやすい。
ある意味、舞台演劇を鑑賞しているような気分にさえなる。
今までにないミステリーを味わいたいときにオススメの1冊。
(2000.12.20初版発行)
東京創元社、ミステリ・フロンティア、1500円+税。
第25回吉川英治文学新人賞受賞
大学入学のために引っ越してきたアパートで、椎名が最初に出会ったのは猫だった。
その次に会ったのは、挨拶のために訪れた隣人、河崎だった。
全身黒ずくめの長身の美青年、河崎はいきなり椎名に話を持ちかける—「一緒に本屋を襲わないか?」—。
しかも河崎の目的は、広辞苑を盗むことだというのだ。
気が乗らない日々を過ごしながらも、結局椎名は河崎とともに、書店へと乗り込むことになってしまう。
河崎が用意したモデルガンを持って、彼が指示したボブ・ディランの歌を口ずさみながら…。
現在進行形の椎名と河崎の日々に、二年前の事件とが交互にサンドイッチされたような状態で物語は進んでいく。
次第に明らかになる、河崎の真意とは?
二年前の事件と現在が交錯したとき、全ての謎が明らかになるのだが、果たして?
悲しくて、せつない物語—というのが、正直な感想である。
現在と二年前とが交錯しながら、どんどん物語が見えてくるに従って、その思いは強くなってくる。
「悲劇的」とも微妙に違う、「衝撃的」でもない。
とにかく雪が積もるように、小雨が降り続くように、悲しみと切なさとが降り続く印象なのだ。
ラストも淋しさが一層際だつ構成力は見事である。
(2003.11.25初版発行)
講談社、1500円+税、短篇連作集。
5つの短い物語が、読んでみるとひとつの長い物語として楽しめる、そんな著者の趣向が見事に生かされた作品。
それにしても登場人物の描写が、とてもいい。
最初、何だ?この人…と思えるくらい、うるさいだけの人物かと思った陣内がページをめくるたびに、さまざまな表情や思いもかける(かけないではない!)行動にハッとさせられる。
対照的に常に盲導犬ベスとともにいる、盲目の青年・永瀬の静かで深みのある人間性が際だっている。
ひとつひとつの物語に仕掛けられた、大小さまざまなミステリーを楽しみながら、ひとつの長い物語として完結する構成力に脱帽である。
[収録作品名]◇バンク ◇チルドレン ◇レトリーバー ◇チルドレンⅡ ◇イン
(2004.5.20初版発行)
角川書店、1575円。
伊坂ワールドを堪能できる作品。
現実と非現実の、微妙な位置に存在する、独特な世界がこの書にも裏切られることなく広がっている。
が、少々伊坂ワールドに食傷気味なのも、また本音であるかもしれない。
ある意味、水準以上に面白いとは思うのだが、感動や読後の余韻に浸ることは、できがたい。
この世界では、妻を殺された鈴木という人物と、大男の「鯨」、ナイフを操る「蝉」、そして謎の押し屋「槿」とが交互に錯綜するストーリー。
果たして、着地点はどこなのだろうか?
(2004.7.31初版発行)