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文藝春秋社、1500円。短編ミステリー4編収録。
高知市役所社会部福祉課に、35年間もの長い間、「林崎」としかわからない、いわば匿名に近い人物から毎月かかさず寄附が送金されていた。
しかもその金額は、年々増額され、送金の総額は2000万円を超え、その間の福利を見込めば、億に近い金額にまで達していたのだった。
そして、その寄附は林崎の願い通り、母子家庭の奨学金として運用されていた。
ある日、福祉課に1通の封書が届いた。
差出人は「林崎邦彦」・・・つまり、これまでの寄附をしてきた人物の息子であるという。
手紙には、これまでの寄附を父の遺言に従って続けること、そして昭和24〜25年頃に高知市の西部地区に在住していた「せいゆう」なる人物の消息をたずねる内容がしたためられていた。
「せいゆう」とは——福祉課課長の結城自身、長い間頭の隅にしこっていた記憶が突然ゆさぶられた感じだったのだが——結城が小学生だった頃、市の中心部を流れる鏡川の土手に小さな小屋を建てて住む浮浪者だったのだ。
さらに結城の妻、靖子も、この「せいゆう」の墓に、毎年墓参りをしていることに気づいていた結城は、林崎と靖子に関わりのある、謎の浮浪者「せいゆう」について調べることにしたのだが・・・!?
表題作になっている『ガラスの墓標』が、断然おもしろい。
その他、無事故を誇りながら、定年間近に事故を起こした青函連絡船の船長を描いた『溟い海峡』。
息子の死と自分の船長としての地位を失った男が、息子と同年代の少年と船を盗み密輸をする計画を立てる『道連れ』。
等々、著者自身、宇高&青函連絡船の船長をしていた経歴を存分に生かした、読み応えのある短編集。