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講談社、1500円。
第44回江戸川乱歩賞受賞作。
7月初旬の、梅雨空がどんよりと重いある日、伊木は融資先を訪問するために、出かける矢先に、同僚の坂本に会う。
彼は、伊木に「これは貸しだからな」という、謎めいた一言を告げ、債権回収に出かけて行った・・・が、これが坂本の姿を見た最後となってしまう。
坂本の死因は、蜂によるアレルギーのショック死。
不審に思った伊木は、同期で長年の友人であり、同じ支店の融資課同僚でもある坂本の死の謎と、最後に告げられた言葉の意味を解明しようと、彼の行動軌跡を追い始めるが——。
著者自身、銀行員時代に、実際に体験した出来事をモチーフに描かれた作品。
「銀行」という職場を舞台に、銀行員同士の人間関係、取引先の倒産、買収等々、さまざまな思惑と金と欲が、入り乱れていく。
しかしながら、こういう計画&動機で、こんなにも数多い殺人が実際に生まれるものだろうか?という、疑問がわいてしまう。
作品自体が、銀行員時代の体験をなぞらえているものとして、細部にわたって現実感があるだけに、かえって「殺人行為」の部分に違和感を感じてしまう。
講談社、2000円、長編。
タイトル名の「M1」とは,「狭義のマネーサプライ(通貨供給量)を意味する記号で,現金と預金の総量を指す」と文中で説明がある。
主人公—辛島武史、35歳—は、東京の私立高校で社会科教師をしている。
教師になる前は、一部上場の総合商社で取引先企業の財務や経営環境を調べる調査部門に在籍していた。
が、商社のリストラと離婚という局面に遭遇し、人生の歯車が狂い、心身共に疲れ果てていた。
そんな辛島の元に、7月も終わりに近いある日、教え子の黒沢麻紀が訪ねてきた。
しかも、いきなり「社債」や「期前償還」等について、質問してくるのだった。
翌日、その麻紀が家出をしたという連絡が入る・・・しかも、彼女の父親が経営する会社が不渡りを出し、倒産寸前だというのだった。
麻紀は、父の会社を救うために、ある取引先の社債を期前償還してもらう交渉に単身出向いたらしいのだ。
辛島は麻紀の行方を追って、木曽川の中流にある企業城下町に赴くのだが、そこでは「西郷札」のような私的通貨が流通する奇妙な街だった・・・。
資金洗浄と私的通貨、というテーマを中心に、企業城下町で商品券的な私的通貨が流通したら、一体その町の経済はどうなるのか!?といった、一種のシミュレーション的パニック小説である。
さすがに、金融関連の説明は、具体的かつ丁寧で、非常にわかりやすい。
「お金」が真の主役ともいうべきストーリーで、それぞれの登場人物の存在感に乏しい。
特に女子高生、麻紀の存在は、あまりにも違和感を覚えるのだが・・・!?