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文藝春秋社、1524円、エッセイ集。
タイトルが「可愛いピアス」・・・てっきり、伊集院氏の女性観に関するエッセイ集かと思って手にとってみた。
が———それが大きな誤解であったことに気づくまで、数分とかからなかったという1冊。
最後の「初出」を見て、さらに納得・・・「週刊文春〜二日酔い主義」の連載をまとめたものだったんだ!
どおりで、63篇ものエッセイが集まっているのに、「酒、競輪、競馬、パチンコ」の話題が、数えきれないくらいワンサカと出てくるはず。
「情けない50過ぎの中年」・・・と、著者自身何度もぼやいているが、何だか憎めないんだなぁ、これが。
再婚した家人も、よくできた人だと、妙なところでも感心してしまう。
話題的には、よくもまあ、こんなにも全身全霊かけての「飲む・打つ(買うはなかったような!??)」だが時として、苦みのきいたビターチョコ、はたまた辛口の冷酒的な味わいのある、文章が心地よい。
講談社、1300円、短編集。
全部で5編の短編が収録されている。
行方不明の兄を犬のテりーと共に待ち続ける友人の妹、——その姿と重ね合わせるように描かれた、遭難した弟を月明かりの海に捜し求める「くらげ」。
夏の日に癌で入院した妻、里子との生と死を見つめる日々を描く、表題作「乳房」。
大学時代の野球部同期だった津森との再会を描く、「残塁」。
義理の父の商売である娼家を手伝う母とそれを苦く思う娘、冴子を描く「桃の宵橋」。
離婚して以来、一度も会うことがなかった高校生に成長した娘と父が初めて二人きりで再会した場面を描く、「クレープ」。
どの作品も短編ながら、読み応えは長編にも勝るほどに質が高い。
それというのも、この5編の小説は、8年もの歳月をかけて、研ぎ澄ませてきたものばかりなのである。
中でも、著者自身の体験とも重なる「乳房」は、絶品。
その浄化された透明な筆致は、見事としかいいようがない。
講談社、1600円+税、エッセイ集。
日本経済新聞夕刊に掲載されたエッセイが中心。
わずか3頁くらいのエッセイばかりなのだが、日々徒然、目にとまるもの、心に感じるもの、体に響くもの、耳に聞こえるものが趣深く綴られている。
時折、ハッとさせられたり、頷いてみたり、氏の目線は魅力的な大人の男のそれである。
とても味わいのある、大人のエッセイ集。
(2003.10.31初版発行)