〈星野　仙一〉

角川書店、１３００円＋税。
２００３．９．１５—タイガースを愛し、応援してきた者たちにとって、それは至福と歓喜の絶頂の瞬間でもあった。
１９８５年に優勝して以来、１８年間というもの、ほぼ「最下位」が定位置となっていたダメ虎タイガース。
その牙を抜かれた虎戦士たちが、雄々しく立ちあがり、無敵の強さを誇った、強者の伝説が生まれた瞬間でもあったのだ。
思えば、元ヤクルトを率いてＩＤ野球を提唱し、輝かしい監督実績を誇った野村監督をもってしても、悲しきかな、タイガースの戦いぶりは変わらなかった。
長年のファンでもある私ですら、毎年の戦いぶりには５月の声を聞く前には、あきらめ半分、後は「ビアガーデン」のつもりで友人たちと、球場へと足を運んだものだった。
ペナントレースが終わり、来季の展望を見るにつけ、キャンプの頃になっても、昨年とさして変わらぬ貧弱な戦力に、戦わずして「今年もダメだな」と、思わせるに充分なチームだったのだ。
それが一人の男の出現によって、ガラリと変わったのだ。
「星野仙一」…中日時代から、私の好きな選手であり、監督でもあった。
闘将といわれる、その熱い戦いぶりは、見るものを魅了するに充分な魅力にあふれていたのだ。
従って、星野監督が阪神タイガースの監督を引き受けたとき、一ファンとして、勝ち負けを別にしても、単純に嬉しいと思っていたのだ。
それが一年目には、戦力不十分ながらも、夏頃までは久々にプロ野球を堪能させてもらえた。
しかも来季への期待まで匂わせながら…。
今年は、監督が招聘されたスカウト陣・選手よりも豪華な顔ぶれが並ぶコーチ陣が発表されたときから、本気なんだと感じさせられることになる。
開幕戦は横浜ベイスターズにエース井川で敗れたものの、あとは逆転に次ぐ逆転で、勝ちまくり、気がついたときにはオールスター戦前にはなんと優勝マジックまで飛び出す始末となっていたのだ。
そして迎えた、「２００３．９．１５」—夢を達成した日付でもある。
この書は、その短くも長かった「Ｖ達成への道程」をまとめたものである。
阪神タイガースファンや、こよなく野球を愛する者には、たまらない１冊でもある。
が、星野監督の卓越した人事手腕、人心掌握術、マネージメント等々、これは単なる野球好きのための本ではなく、混迷する日本という国—政治も経済も全て含めて—を、根本的に変えるためのアイディアやヒントがたくさん詰まった、理想のビジネス書でもあると思う。