〈平岡　泰博〉

集英社、１６００円＋税、第一回開高健ノンフィクション賞受賞作。
１９９６年〜９７年に数度にわたり、ロシア沿海地方中部にあるシホテ・アリ自然保護区で、山中に棲むシベリアトラを追跡し撮影しようという試みが行われた。
これまでシベリアトラを映像にとらえた成功例はなく、世界で初めての映像化でもあった。
当時関西テレビのスタッフの一員として参加した著者は、５４歳のドキュメンタリーカメラマン。
数年後に迫っている定年間近な年齢で、マイナス３０度にもなるという苛酷を極める大自然の中で、精神と肉体の極限を見つめ続けた記録である。
森の神＝アンバと、古より敬われ畏れられたシベリアトラを追跡する著者と、森のレンジャー・ヴィーチャとの言葉のいらない心の交流。
山で生まれ、山で育った漁師ですら一歩間違えれば、凍死するほどの凍寒な地で、６〜７００キロを踏破した末に待ち受けていたものとは…。
たった一枚の写真が、そのときの息詰まる瞬間を見事に再現している。
映像カメラマンの著者が、カメラをペンに持ち替えて、大自然の営みにおける生と死を峻烈に問いかけている。
（2003.11.22初版発行）