1958年大阪生まれ。大阪府立大学工学部電気工学科卒。1985年「放課後」で第31回江戸川乱歩賞受賞。1999年「秘密」で第52回日本推理作家協会賞受賞。著書に「白夜行」「レイクサイド」「手紙」「トキオ」など多数。幅広い作風と、力量あふれる筆致とで読者を魅了し続けている。 |
集英社、1900円、長編。
建築が中断したままのビルの一室で、他殺死体が発見された。
被害者は現場から1キロほど離れたところで、質屋を営む中年男性だった。
捜査が進むにつれ、被害者が事件に遭う直前に百万円の定期預金を解約していたこと、また子連れの未亡人宅を訪問していたことなどが明るみになった。
やがて、捜査線上に有力容疑者が浮上するが、彼はやはりこの未亡人のもとに通っていたことなども判明する。
しかし、その容疑者も、さらには未亡人も次々と事故で死亡し、質屋殺し事件は未解決のまま、時が流れていった。
物語はこの事件のあと、被害者であった質屋の息子と、薄幸の未亡人の娘が成長していく姿を、二人を並行しながら進んでいく。
だが、彼と彼女を取り巻く人間たちの間に、さまざまな不幸や災厄が次々に起こっていくのだが・・・。
20年ほどの時間の流れを、「質屋殺人事件」を起点に、その被害者の息子と被疑者の娘との人生を、交差するように描いた作品。
淡々とした筆致で描きながらも、ぐいぐいと読ませる著者の力量はさすがである。
(1999.8.10初版発行)
集英社、1800円+税、長篇。
1995年1月17日—未曾有の阪神大震災が巻き起こす混乱の最中、水原雅也は運命の出会いをする。
雅也は自殺した父親の借金話のもつれから、叔父を殺害してしまう。
その一部始終を見つめていた、美貌の女性—新海美冬との出会いだった。
その日から運命共同体となった二人は、やがて東京で人生をやり直そうとする。
美冬の愛だけを頼りに、彼女を信じ、全てを受け入れようとする雅也。
雅也をはじめ、自分の野望を貫くためには、手段を選ばず、周りの人間を利用する美冬。
2000年のミレニアムに向け、20世紀末の不安な世相を背景に、読み応えある作品となっている。
類い希な美貌と、剛胆なまでの精神力—「魔性の女」は、男たちの人生ばかりか、魂までをも破壊してしまうのだろうか。
「白夜行」の姉妹編にあたる、本書も決して読者を裏切らない出来映えである。
(2004.1.30初版発行)
講談社、1600円、短編連作集、ミステリー。
さまざまな事件をとく鍵が、動機や証拠、アリバイやトリックなどなど、いろいろあるとするならば、この作品はズバリ「犯人の心理」を重点においている。
短編連作集だが、主人公でもある練馬警察署の加賀刑事が丹念にたどる、殺人犯人の心理描写とその謎解きが鮮やかでもある。
長編では味わえない、シンプルで読みやすいミステリー。
表題作の他、全部で5作品が趣向を凝らしている1冊。
文藝春秋、1333円、短編連作集、ミステリー。
探偵ガリレオシリーズ。
常識では計れない事件、オカルト的要素のある事件、迷宮入りしそうな事件——等々、さまざまな難事件を、解決していく探偵ガリレオこと、天才科学者湯川の存在がユニーク。
彼は帝都大学理工学部物理学科の助教授。
草薙刑事がいつも持ち込む難事件を、思いもよらない視点から次々に鮮やかに解決していく。
幽体離脱、幽霊が知らせる殺人事件、ポルターガイスト等々、全5編収録。
どの短編も、それぞれに趣向が凝らされていて、面白く読める1冊。
実業之日本社、1500円+税、長編ミステリー。
並木俊介は、息子章太の中学受験勉強の強化合宿に妻である美菜子とともに参加する。
場所は姫神湖別荘地—同じ中学受験を目指す、4世帯の親子の強化合宿である。
そこに現れたのが、会社の部下であり、愛人でもある高階英里子だった。
高階英里子に会うために会社の急用があると偽り、彼女の泊まるレイクサイド・ホテルへ向かった俊介だったが、いくら待っても彼女が現れず、やむなく合宿に戻る。
そこで驚愕の事件が彼を待ち受けるのだが…。
愛人を殺され、しかも妻が犯人でありながらも、淡々として冷静に見える俊介がちょっと不可解。
ラストももうひとひねり、欲しい気がする。
講談社ノベルス、780円。
愛知県警豊橋署に勤務する和泉康正は、たったひとりの妹である園子が気にかかり、急遽上京する。
そこで見たものは、変わり果てた妹の姿だった。
警察は「自殺」と断定するが、康正は偽装殺人であることを見破る。
独自に現場検証をした結果、康正は二人の容疑者を割り出した。
ひとりは妹の親友、弓場佳世子であり、もうひとりは元恋人であった佃潤一である。
復讐を誓い、真相究明に立ちあがる康正だったが、その前に練馬署の加賀刑事が立ちはだかって…。
最後の真犯人を追いつめていく場面は、グイグイ引き込まれる。
最終的に「犯人は誰?」を、読者側にも推理させる心憎い演出(そんなミステリー本ばかりでも困るけど…)!
究極の犯人当てミステリーとあるが、その通りだと納得。
—私はやっぱり犯人は○○だと思うなぁ。
講談社、長編、1800円+税。
定職もなく、すさんだ生活を送っていた宮本拓実のもとに、ある日「トキオ」と名乗る青年が現れる。
トキオの不思議な言動は、しばし拓実を驚かせるが、同時に懐かしさも覚えるのだった。
ところが拓実の彼女である、千鶴が突然行方も告げず、失踪—拓実は彼女の後を追って大阪へと旅立つのだが…。
20年の時空を越え、23歳の若かりし頃の父、拓実のもとにやってきた息子。
投げやりな人生をおくる父に、怒ったり、あきれたり、心配したりと、真剣に向かい合うトキオの姿がいじらしい。
難病に冒され、短い人生であった息子への「生まれてきて幸せだったのかどうか?」という問いかけるが、トキオの叫びに思わず涙してしまった。
人生をもう一度、真剣に見つめてみたい…そんな気持ちにもさせてくれる、愛と感動に包まれた1冊。
光文社、長篇ミステリー、1600円+税。
広告代理店「サイバープラン」に勤務する佐久間駿介は、大型プロジェクトの責任者を相手のクライアントから一方的に降ろされてしまう。
「ゲーム」に絶対の自信をもつ佐久間だったが、副社長葛城勝俊の意向であり、従わざるをえなかった。
しかし偶然にも葛城の娘・樹理と知り合い、彼女が家出をしてきたことから、「誘拐という名のゲーム」を思いつき、二人で誘拐を企てるのだが…。
誘拐事件を扱っているというのに、途中までは、あっけないほど淡々と物語が進行していく。
犯人側からだけの視点でのみ「誘拐事件」を語り、誘拐された被害者側が全く触れられない。
従って、両者の緊迫感も主人公の心情さえもあまり語られず、まるでゲームをしているような感覚さえおぼえる。
が、ラストの大どんでん返しに思わず「アッ!」と思わされた。
藤木直人&仲間由紀恵主演で、2003年映画化。
集英社、1600円、長編ミステリー。
北海道に住む氏家鞠子は、小学校高学年頃から、これといった理由もなく、母親に嫌われているのではないかという思いにとらわれる。
しかも両親からは、私立の中学校を勧められ、寄宿舎に入ることになった。
年末に実家に帰省したときに、悪夢のような火事が発生し、鞠子と父親は事なきを得るが、母親は焼死してしまう。
一方、東京に住む小林双葉は、母一人子一人で暮らしていたが、双葉がバンド活動でTVに出演した頃を境に、不思議な事件が相次ぎ、母を交通事故で喪ってしまう。
鞠子と双葉は、それぞれ自分や自分の周囲に起こった、不可解な事件の謎を探ろうとするのだが・・・。
二人の主人公が、交互に登場しながら、やがて全ての謎が一つになって解き明かされていく。
人間は自ら「生と死」は選べないものだが、それにしても二人の誕生そのものが、彼女たちだけでなく、周囲をも不幸にしてしまう結果が悲しい。
1993年に発表された作品。最先端の不妊・生殖に関する医療技術や問題点を扱った作品。
講談社、1000円、短篇連作ミステリー集。
竹内しのぶ、25歳、独身。
短大を卒業し、大阪の大路小学校の教壇に立つようになってから5年になる。
ちょっと見が丸顔の美人先生だが、大阪の下町で育ったせいか、言葉は汚く、万事ががさつ—おまけに手も口も早いという、見かけと中身が大違いなのだ。
今は、小学6年生の担任をしているが、しのぶ先生の行く先々で事件が降ってわいてくる。
お見合いもしたエリート本間や、うだつのあがらない刑事・新藤、そしてクラスの子供たちも加わって、事件解明にてんやわんやの大騒ぎ。
2000年にNHKで山田まりや主演によりTVドラマ化。
会話も大阪弁で書かれており、テンポのよい、肩の凝らないミステリー短篇集。
[収録作品名]◇しのぶセンセの推理 ◇しのぶセンセと家なき子 ◇しのぶセンセのお見合い ◇しのぶセンセのクリスマス ◇しのぶセンセを仰げば尊し
(1988.12.12初版発行)
講談社、1359円+税、短篇連作ミステリー集。
元大路小学校教師であり、今は内地留学で大学に通う竹内しのぶこと、しのぶセンセ。
前作以上に面白い!(オモロイというべきだろうか?)
おなじみの鉄平・郁夫も小学校を卒業し、無事中学生になって登場。
しのぶをめぐる新藤刑事と本間の恋の行方も気になる展開。
最終話では、内地留学を終え、新たに赴任した文福小学校が舞台となっている。
しかし残念ながら、「あとがき」によればこのシリーズはこれでおしまい…らしい。
しのぶセンセやおなじみの愛すべきキャラともう会えないかと思うと、とってもさびしい。
[収録作品名]◇しのぶセンセは勉強中 ◇しのぶセンセは暴走族 ◇しのぶセンセの上京 ◇しのぶセンセは入院中 ◇しのぶセンセの引っ越し ◇しのぶセンセの復活
(1993.12.3初版発行)
毎日新聞社、1600円+税。
罪を犯すことで、身内にまでその罪が問われることになる—この物語は、加害者でもなく被害者でもない、加害者側の家族が辿る「事件後の人生」を描いたものである。
武島直貴の兄は、弟の大学進学資金のために盗みに入った家で、殺人まで犯してしまう。
直貴は大学進学もあきらめ、バンド仲間とデビュー目前で音楽への道も絶たれ、交際していた彼女との結婚も破談となる。
やっとの思いで就職したのも束の間、秘密にしていた兄のことが会社に知れ、不当な人事異動までされてしまう。
そんな直貴のもとに、刑務所から毎月のように手紙が届くようになるのだが…。
自分が犯罪を起こしたわけでもないのに、「身内」というだけで執拗なまでに事件に翻弄されていく様子が克明に描かれている。
一生懸命努力しても、報われることのない直貴の人生は理不尽なようだが、被害者や周囲の人々の「加害者の家族」に対するとまどいや哀しみ、怒りもある意味共感できる。
ひとつの犯罪が、被害者のみならず加害者の周囲にまで不幸の連鎖が続いていくことになる。
できれば短篇でもいいので、続編を是非読んでみたい思いに駆られた作品。
(2003.3.15初版発行)
角川書店、1800円+税。
ずしりと厚みのある本書には、その厚さに負けないほど不幸がぎっしり詰まっている。
読めば読むほど、気持ちが萎えてくるぐらい、不幸の連続である。
主人公の名は、田島和幸——父は歯科医を営み、地元でも有名な裕福な家の一人息子だった。
そんな和幸の家を、祖母の死がきっかけのように一気に崩壊していく。
両親の離婚、父親の浮気、住み慣れたお屋敷を追われ、泥まみれのような借金生活へと…。
転落に次ぐ転落の繰り返しは、まさに不幸のオンパレードである。
しかしここまでの不幸は、まだまだ序の口に過ぎなかったのだった。
それにしても、歯がゆいくらいの主人公の性格である——人がいいにも程がある。
騙される側と騙す側…主人公は蜘蛛の巣に絡め取られた小さな虫に思えてならない。
不幸に突き落とされるたびに、騙した相手に対して殺意がもたげ、その都度かわされる。
殺意が殺人にまで至るのか、殺意のままで終わるのか、主人公は「殺人の門」を往ったり来たりしている。
ハッキリ言って、途中まどろっこしい気分に何度も陥った。
主人公が友人に振り回され、さらに不幸のどつぼに嵌る様子がこれでもかというくらい何度も登場するからである。
いい加減にお人好しを返上したら?とでも、主人公にアドバイスを送りたくなるくらいだ。
だけど読み始めたら最後、結局この主人公がどこまで行くのか、どう人生に決着をつけるのか、知りたくなってしまう。
さすが東野圭吾・・・最後の最後まで、読者を引きつけてやまない。
(2003.9.5初版発行)
双葉社、1650円+税、長篇ミステリー。
人気作家日高邦彦が、何者かに殺害された。
発見者は幼なじみであり、同じ作家仲間でもある野々口修と日高の妻、理恵である。
犯行現場に赴いた加賀刑事は、さまざまな観点から推理を巡らすのだが…。
最後の最後まで、ストーリーは2転3転し、展開が読めない。
しかもそこいら中に、著者の巧妙な伏線が縦横無限って感じでしょうか。
タイトルの「悪意」が、とても意味深な1冊。
あっという間に読めたのですが、ゲームを制覇したみたいで、読書という気分にはなれませんでした。
加賀刑事…東野作品では、数少ないシリーズキャラクターだが、今回は加賀恭一郎の教師時代の過去にあった事件にも触れているのは興味深い。
(1996.9.20初版発行)
講談社文庫、563円+税。
高校時代に最初で最後の恋をした、男と女が皮肉な形で再会する。
男は警察官として、女は被疑者の妻として。
しかも女の夫は、警察官となった男が子供の頃から、どうしても勝てない唯一のライバルだったのだ。
幼なじみの二人が宿命の対決を果たすとき、全ての謎が明らかになるのだが…。
著者自身、「意外性」を追求すべく、そのすべてがこめられた「ラストの一行」が鮮やかだ。
(1993.7.15初版発行)
文藝春秋、1714円+税。
帝都大アメリカンフットボール部に所属していた仲間たちのその後を描く物語。
年に一回、いつもの料理店に元部員たちが集い、当時をなつかしんだりしていた。
主人公の西脇哲朗は、その定例飲み会の帰りに、当時妻の理沙子とともにマネージャーをしていた日浦美月に遭遇する。
しかし当時の彼女の面影はそこにはなく、哲朗たちの見知らぬ男となっていた。
しかもそこで美月はさらに驚くべき告白をする。
同一性障害をさまざまな視点から描いた作品。
これまで考えたこともなかった「性」の違い、区別など、東野作品ならではの新鮮な驚きがあった。
(2001.3.30初版発行)
朝日新聞社、1785円。
上下2段、361pにもわたる大作ですが、あっという間に読み終える。
今作品には、著者東野氏のメッセージをとても感じる。
これまであまり語らせることのなかった「事件を追う警察官の本音」に著者自身の強い主張がみなぎっている。
それにしても、やりきれない事件がホントに多い世の中である。
今では、こういった小説よりも、現実社会における事件がよりいっそう悲惨、あるいは異常な感さえあるのではないだろうか。
物語中でも、未成年による性犯罪及び若者の無軌道ぶりとその罪なき被害者たちの絶望が描かれている。
特に前半は、あまりにも無惨で読み進めることさえつらくなるくらいですが、実際にも起こりうる(しかも頻繁に)事件を扱っている。
それにしても被害者及びその家族たちは、何故こうも守られないのでしょう?
加害者の権利は、とても保護されているように思えるのに、こうまで被害者の人権が蹂躙されていもいいものなのだろうか、と常々憤慨することも多々あるのだが、その気持ちをこの本は代弁してくれているように思えてならない。
未成年のブレーキがきかないほどの無軌道・残虐ぶりは、貫井氏の「殺人症候群」でも同様に怒りすら覚えるのだが、こういった社会的テーマを織り込んだ作品は、ただ単なる謎解きミステリーより考えさせられることも多く、つい手に取ってしまう。
(2004.12初版発行)