〈後藤正治〉
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講談社、1800円+税。
阪神タイガースに過ぎたるものが二つあり。甲子園球場と縦縞のユニフォーム—と。
文中の一節であるが、ここまで簡潔に阪神タイガースを愛してやまない人々の心を代弁する言葉もまたないのでは、と思った。
そしてつけ加えるならば、「過ぎたるものは三つ」あると、私は言いたい。
「三つ目は、伝説の選手たち」だ。
創設70周年(2005年)を迎える球団史を彩る、いずれも個性的で、かつどことなく人生の悲哀をもしょってグランドに散っていった戦士たち—ほとんどが現役時代を知らぬ選手ばかりではあるが、時代を経ても彼らたちの輝きは、少しも失われない。
それどころか野球熱そのものが、かつての時代とは比べようもないほど、温度の低い現代においても、彼らのいる時代だけは、とてつもなく熱いものなのだ。
「江夏豊」、という男も、そんな猛虎戦士のまぎれもない一員であり、記録よりも記憶に残る、選手の一人だ。
本書では江夏豊というひとりの男を軸に、戦後に生まれ高度成長期に青春と遭遇した人々とを追ったノンフィションである。
まさそく時代は「プロ野球のシーズンまっただ中」であったに違いない。
プロ野球が「夏本番」を迎えた頃の、時代の証言がこの一冊にはぎゅっと詰まっている。
(2002.2.1初版発行)