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祥伝社、1800円、長編。
中国史上のみならず、歴史上もっとも残忍な悪女といえば、漢帝国高祖劉邦の妻、呂后の名が真っ先にあがるのではないだろうか。
何しろ、夫の死後、青年皇帝を擁し、天下を我がものとした彼女の行ったことといえば、夫の寵姫であった戚姫とその息子を残虐な手口で殺したこと、また息子の皇帝に邪魔な者は容赦なく粛正の対象とし、すさまじいまでの処刑や処分を行っていったことであった。
しかしながら本作品は、大悪女としての呂后というより、そうならざるを得なかった彼女の心の深淵、情念の奧襞(ひだ)を、女性の視点から描いたものである。
女性でありながら、夫の死後、誰からも恐れられながらも天下をまとめ、ついには我が手を血で汚しながらも守ろうとした息子皇帝からも恐れられた、呂后の心の闇を燃やす蒼い炎がが見事に描かれている。
講談社、1800円。
秦の時代から、次代を担う覇者として、劉邦と戦い、圧倒的な武力を有しながら敗れ去った、悲運の項羽をさまざまな視点から描く短編集。
子供の時代、美女の代名詞ともいわれる虞美人との恋、懐刀でもあった部下から見た項羽、などなど5編からなる、全て項羽を取り巻く作品。
あとがきにもあるが、不器用にしか生きられなかった男の美しさを描く、これは筆者の恋文の連作集ともいえるもの。