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講談社、1900円+税。
神を信じない娼婦のジャンヌ、神の声を聞きオルレアンを救うために立ちあがった処女ジャンヌことラ・ピュセル。
「神」を中心に対極にある二人のジャンヌを巡って、物語は進んでいく。
歴史にも残る、オルレアンの戦いがその舞台となる。
主人公は娼婦ジャンヌだが、貧しさの中で選んだ仕事が「娼婦」であり、いつしか栄光をつかみ取るために、イングランドの間諜となったり、逃亡中の王太子シャルルや、その義母であるダラゴンに言葉巧に接近するのだが…。
片や、ラ・ピュセルことジャンヌ・ダルクは、神の意志に従い、オルレアンを救わんと奔走するのだが、その結果は歴史上に残る通りとなる。
男性の脇役にも、神を信じない、ジル・ドゥ・レと、神を信じるアルチュール・ドゥ・リッシュモンを配し、より興味深さを増している。
この物語の中では、娼婦ジャンヌの力強い生き様に思わぬ共感を覚える。
著者の歴史エッセイ『ジャンヌ・ダルクの生涯』も、併せて読みたい。
文藝春秋、各1748円+税、上下巻、長篇歴史小説。
ユダヤ人であるエリヤーフー(エディアルト)は、自らの片目とひきかえにユダヤそのものと永久に訣別することを決意し、ロートリンゲン公シュテファン・フランツの臣下となる。
数々の功績と戦歴により、ハプスブルクの宝剣と讃えられるようになるが、ユダヤ人という出自ゆえに、女帝マリア・テレジア(テレーゼ)に疎まれ、頑なに拒まれる。
ユダヤ人でありながら、ユダヤを捨て、真のオーストリア人になろうと、もがき苦悩するエディアルトの挫折と回生の物語である。
18世紀初頭のハプスブルク帝国を背景に、弱肉強食の世界そのものである、各国の駆け引きも興味深い。
歴史上の史実と、虚構の中で、孤高の魂をもつエディアルトが力強く魅力的に描かれている。
テレーゼやフランツ、フリードリヒといった実在の人物たちによる脇役も人物描写が見事である。