〈あさの あつこ〉
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教育画劇、1442円、「バッテリー」シリーズ第1弾。 絵・佐藤真紀子。
類い希なる投手の才能をもつ原田巧は、中学生になる前の春休みに、父親の転勤で広島と岡山の県境にある小さな地方都市に引っ越してきた。
新田とよばれるその地は、両親の生まれ育った街でもあった。
巧は、そこで地元チームでキャッチャーをつとめる永倉豪と運命的な出会いをすることになる。
同い年でありながら、正反対の性格をもつ二人は、やがてお互いの才能を認めあいながら、バッテリーを組むことになる。
巧と豪—二人を中心に、巧の弟で病弱な青波、それぞれの親たち、巧の祖父でありかつて地元高校を甲子園へと導いた名監督でもあった洋三、チームの仲間たち—と、さまざなま顔ぶれが登場するが、主役も脇役もいきいきと描かれており、今後の展開が非常に楽しみである。
特に主人公である巧の、ピッチングのみならず、中学生とも思えぬその言動もワクワク&ゾクゾクさせてくれる。(天才って
、こういうものなのかもしれない)
「児童文学」というカテゴリー、しかも少年野球という題材で展開するシリーズなのだが、子供だけでなく大人も、まして野球好きもそうでない人にも、幅広い層におすすめしたい。
著者のあさのあつこさんと、イラスト面でバッテリーを組む佐藤真紀子さんの息もぴったりである。
(1996.12.10初版発行)
教育画劇、1600円+税、「バッテリー」シリーズ第2弾。絵・佐藤真紀子。
父の転勤でやってきた街で、新田東中に入学した原田巧。
「自分」に自信があり、己の投げる直球のように、ストレートに何事にもぶつかる巧は、入学早々、野球部の先輩や顧問の反発をかってしまう。
天才が天才であるがゆえの、揺るぎのない己への絶対なる自信。
それは巧が巧であり続けるための、挑戦の始まりでもあった。
学校側の徹底した生徒指導に対しても、反発を感じる巧や級友たち。
その圧力に対抗すべく、豪や仲間たち、弟・青波の存在を支えに、自分がもっとも自分らしく在る場所—マウンドに向かうしかないのだ。
第1弾では、巧と豪の出会いを、本書では巧が先輩や顧問の反発をかいながらも、自らを駆り立てる何ものかを求めて、成長への階段を登り始めるまでを描いている。
巧にとって「自分の意志」を貫き通すことの大切さは、相手が目上の大人だろうが、先輩だろうがお構いなしである。
どこまでも息継ぎもせず、走り続ける若駒(しかも気性の荒い)のようでもある。
この先、自分と周囲とどんな風に折り合っていくのか、どんな成長を遂げていくのか、ますます目が離せないシリーズである。
(1998.4.15初版発行)
教育画劇、1500円+税、「バッテリー」シリーズ第3弾。絵・佐藤真紀子。
Ⅱで巻き起こした先輩との軋轢、顧問オトムライの怪我などにより、新田東中野球部は、活動禁止となってしまう。
中学一年生になって入部した野球部で、一日も早く試合のマウンドに立ちたかった巧たちは、自主的にトレーニングは欠かさないものの、物足りない日々が続いていた。
やがて夏も終わり、三年生は引退の時期となるが、9月から活動再開の許可がおりる。
オトムライは、不完全燃焼だった三年生のためにも、全国ベスト4となった強豪校横手中との練習試合を企てる。
しかし横手中には、試合申し込みが殺到しており、実現は難しい。
そこで3年生対1〜2年生の紅白試合で、デモンストレーションを行うとするのだが…。
野球がテーマの物語ながら、初めて試合の描写がある巻となった。
たったひとつの白球を追い、ひたすら投げる、打つ、守る、走る…ああ、野球ってなんてシンプルなスポーツなんだろう。
それでいて一度その魅力に取りつかれたら、とことん嵌ってしまう魔力にあふれている。
土埃、草のにおい、焼けつく太陽、吹き抜ける風、汗、声…この本の中に、小さなグランドが確かに存在している。
躍動感あふれるシリーズ3作目だが、いよいよ次作で強豪横手中との試合が開始されることになる。
「—一歩一歩を確かめてマウンドを踏む。スパイクの下の感触を味わう。世界の中心がここにある。」
巧のマウンドへの思いが凝縮されている気がする。
今後の展開がさらに待ち遠しい。
(2000.4.15初版発行)
教育画劇、1500円+税、「バッテリー」シリーズ第4弾。絵・佐藤真紀子。
全国ベスト4の強豪校横手中との対戦—そこで巧と豪は、信じられない体験をする。
初めて巧がメタクソに打ち込まれたのだ。
しかも最後まで投げることも出来ず、マウンドを高槻投手に譲って…。
あの日から、巧はボールが握れない。
豪とも一言も口をきいていない。
本書では、巧と豪との限界を知り、さらにその先を越えてみたいと願う二人が描かれている。
もうひとつの軸が、横手中の天才打者門脇と、その親友であり五番バッターを努める瑞垣の関係である。
一人は真っ直ぐな心根で野球を愛し、その野球の神様にさえ愛される天才。
同じように野球を愛しながらも、親友と同じ高みには決して登れないことを悟った実力ある打者。
屈折しながらも、その思いは心の奥深くに封印されている。
天才と、その天才を囲む人々を描きながら、物語は加速度的に進んでいく。
これはホントに中学生を描いた物語なのだろうか—まるで「エースをねらえ」の藤堂やお蝶夫人の世界じゃないか。
それくらい大人びた世界が広がっている。
だが決して媚びない、濁らない、ピュアな魂も息づいている世界なのだ。
個人的に門脇クンと瑞垣くんとの間柄は、とてもいいと思った。
(2001.9.15初版発行)
教育画劇、1500円+税、「バッテリー」シリーズ第5弾。絵・佐藤真紀子。
巧が少しずつ、少しずつ変わってきた。
これまでのように誰の意見にも耳を貸さず、従わず、自分が自分であり続けるためだけに、ボールを握り、マウンドに立ち続けてきた少年に変化の兆しが訪れた。
その変化の鍵を握るのが、バッテリーを組む豪である。
自分以外のことに、超無関心だった巧が、豪のことがわからない、何を考えているのか、どうしたいのか、知りたいと思う焦燥感がじりじり伝わってくる。
そして引き続き、門脇と瑞垣の関係—門脇は名門野球部のある高校に入学が決まり、将来的にも甲子園で名をあげ、やがて野球人の一人として成功するであろう未来が待っている。
片や瑞垣は、スポーツ推薦を断り、野球部のない高校を選ぶ。
何故なのか…親友であるはずの門脇には、その気持ちが理解できない。
横手中と新田東中との中学卒業の先輩たちと巧たち現役中学生との、各々のリベンジを掛けた戦いはもうすぐ始まる—。
とりあえず、「バッテリー」シリーズはここまで刊行されている。
この後は一体、どうなっているのだろうか?
登場人物たちや物語の進行も、非常にいきいきとして時間も忘れて読みふけってしまうが、この続きを一日も早く読みたいと切望してしまう。
(2003.1.10初版発行)
教育画劇、1600円+税、「バッテリー」シリーズ第6弾。絵・佐藤真紀子。
「バッテリー」シリーズも、いよいよ最終巻である。
横手中と新田東中との、現メンバーによる最後の試合—それは終わりでもあり、新たな戦いの始めでもある。
原田巧という、一人の天才は、自らが望むと望まざるに関わらず、周囲の熱度を自然に上げていくものらしい。
キャッチャーの豪、卒業していくキャプテン海音寺、横手中の天才打者門脇、瑞垣…それぞれが、巧を巡ってさまざまに想いをめぐらしていく。
当の巧自身は、そんな周囲にも惑わされることなく、常に自らに問いかけいくもの—それは自分が何を求めているのか?というただ1点に尽きるのではないか?
それはまた、バッテリーの相手がたとえ豪でなくとも、本来の力がだしきれるかというものでもある。
野球—投げる、打つ、捕る—なんと、単純かつ奥の深いスポーツなのだろうか。
単純ゆえに、誰もが魅了され、夢中になるのではないだろうか。
たとえ他のいっさいが未熟で成長途上であったとしても、野球の神様に愛された一人の少年の物語は、鮮烈で美しく、しかも爽快だ。
巧を主人公とした、この物語は本書で終わるのだが、その後の彼らたちの成長ぶりに、いつかどこかでまた再会したいと切に思った。
(2005.1.15初版発行)