書名&たまえもん度★をクリックすると「たまえもん書評」が表示されます
集英社、2200円。写真は競馬写真界第一人者の久保吉輝氏によるもの。
「サイマー!」とは、中国語で賽馬・・・Sai ma、つまり競馬のことをいうらしい。
小説家であり、有名になる前は土日の競馬で生計をたてていたという、著者の東京競馬場(府中)から、中山、札幌などの日本国内の競馬場から、凱旋門賞で有名なフランスのロンシャン競馬場、本場のイギリス・ダービー、香港、アメリカ、オーストラリア、ドバイなどなど、世界各地の憧れの競馬場巡りがこの1冊で堪能できてしまう。
しかも、巧みなエッセイをさらに飾るのが、久保吉輝氏の素晴らしい写真の数々である。何とも贅沢なフォト・エッセイ集である。
世界における競馬感や、その国々の競馬場の雰囲気がじっくり味わえる1冊。
光文社、1942円、長編。
かつてノベルズ版として、刊行された3冊のシリーズの合本である。
ゆえに相当分厚い。しかも上下2段組になっている手強いボリュームである・・・が、一気に読めてしまうおもしろさである。
一気に読めるというよりも、息もつがせぬ超ハイレベルな、痛快悪漢小説(ピカレスク)と言いたい。
主人公は、それぞれすねに傷持つ3人・・・組のため、あえて殺人を犯し、13年6月の懲役をくらい、捨て駒となったピスケンこと阪口健太。
湾岸派兵に反対すべく、師団長の面前で自決せしめんと、反逆者となった大河原軍曹。
東大から大蔵省、さらに国会議員秘書にまでなりながら、ワイロ事件に巻き込まれ収賄者の汚名をかぶった広橋。
その3人を更正すべく(!?)立ち上がったのが、名物刑事マムシの権左こと、向井警部補である。
悪党だが根は硬派な3人と、権左とが世の不正を糺すべく立ち上がった・・・笑いと、涙と、胸をすく活躍シーンがたまらない、充実の1冊。
まさしく、「きんぴか」な本である。
マガジン・マガジン、1524円。
作家になる前は、競馬で飯を食っていた・・・とまで、言いきる著者の「本当に競馬で儲ける」ための指南書。
馬券はPATでゲーム感覚で買ってはいけない、勝ちたいなら競馬場へ足を運べといったような具体的な「あくまでもシビアに勝つためのアドバイス」が満載である。
ただし、「書き下ろし」ならぬ「語り下ろし」エッセイ。
徳間書店、1500円、短編連作集。
「天切り松 闇がたり」シリーズ第一巻。
舞台を明治〜大正にかけて、ロマンと人情と義理とに彩られた盗人稼業の裏人生を、主人公の天切り松こと松蔵が語るスタイル。
1編ずつは短編だが、まるで錦絵か、はたまた歌舞伎舞台を観ているような錯覚にとらわれるほど、見事な筆致。
当時、盗人はじめ政財界や警察、はたまた江戸市中で知らない人はいなかった、目細の安吉親分にもらわれた幼い松蔵が70年来の盗人稼業の数々を、まるで絵物語のように語っていく。
たとえ盗人であっても、誇りと自信と己の生き様を貫く姿は、たとえようもなく美しい。
「人生の美学」をつらぬく人々を描いている。(この作品は「闇の花道」編)
集英社、1500円、短編連作集。
「天切り松 闇がたり」シリーズ第二巻。
第一巻同様に、天切り松こと、松蔵が留置場の中で語る、闇がたりの数々。
清水の次郎長一家四天王のひとり、居合いの達人「清水の小政」を描いた「残侠」。
どんな人物にも変装できる、百面相の書生常を描く「百面相の恋」。
松蔵の初恋を描く、「星の契り」。
等々、この第二巻も、目の前に桜吹雪や、満天の星々がありありと目に浮かぶような鮮やかさ。
「男の美学」とは、かくありき・・・の見本のような登場人物が、皆美しい。
講談社、1600円。
夢にまでみた直木賞作家にもなり、まだまだ続く浅田節。
「勇気凛凛」エッセイの第三弾。
怒濤のおもしろさが押し寄せる、1冊。
講談社、1600円。
「勇気凛凛」エッセイの最終版。
ますます冴えわたる浅田節がもっと読みたい…と思ったが、これが最後のシリーズ本。
実に、名残惜しい。——次回作復活を期待して★ひとつ、とりました!
講談社、1600円。
まだ直木賞作家になる前に、ある週刊誌に連載されたエッセイ集。
笑いあり、涙あり、怒りあり・・・さまざまな表情をゆたかに見せる浅田氏の痛快エッセイ。
元気が出ること、間違いなしの1冊。
講談社、1600円。
「勇気凛凛」エッセイの第二弾。
今回も、1作目に負けず劣らず、おもしろさ120%。
公共の場や、電車の中では読まないように注意が必要・・・笑いが止まらなくなるので。
吉村貫一郎—元盛岡南部藩二駄二人扶持組付足軽であった彼は、幕末に脱藩し、新選組に入隊する。
新選組で最も強いといわれた男は、意外な面を持っていた。
「鬼貫」と称されるほどに剣の腕は凄まじく、温厚でかつ教養があるのだが、一方で金に細かく、守銭奴とまで蔑まれていたのだった。
命を削りながら銭金に細かい吉村の所業は、全て国で待つ愛する妻と三人の子供への仕送りのためであった。
吉村貫一郎に関わった人々にインタビューをしていきながら、時折吉村自身の独白が挟まれる、といった物語形式である。
最初は読みづらく感じた南部弁が、吉村とその関係者、そして吉村らを育んだ南部藩そのものと相まって、絶妙な効果を生んでいることに気づく。
日本で一番美しい国、そして何ものにも代え難い家族への愛—己の信ずる「義」を全うするために、頑なまでに不器用な生き様を貫いた男の姿に深い感動を覚える。
日本の最も美しい男の生き方(侍)が生きた時代は、そう遠くではないものの、今では物語の中でしか見出せないものなのだろうか。
(2000.4.30初版発行)