〈秋山 香乃〉
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文芸社、1800円+税、長篇歴史小説。
新選組副長土方歳三を主人公とした歴史小説。
特に幕府が瓦解した後の、晩年にスポットをあて、丁寧に描かれている。
新選組が京都で華々しく活躍していた頃の歳三は、どちらかというと「影」に徹していたように思う。
「新選組」という光がより輝くために、より濃い影を必要としたように、歳三は自ら「影」の役回りを演じていた。
その自分を影にさせていた「新選組」が、新政府軍からは賊軍、旧幕府からしてみればお荷物でしかなくなったとき、歳三は本来の「歳三の輝き」を取り戻す。
本書に描かれた歳三像は、まさしくこわれていく新選組と輝きを増す歳三である。
何人をも虜にせずにはいられない歳三の魅力が余すところなく描かれている。
また歳三だけでなく、他の登場人物も丹念に描かれている。
斎藤一、永倉、原田、島田、玉置、細布子、伊庭…中でも、印象的だったのは新選組最後の局長となった相馬主計である。
行く末を知りながらも、己の信ずる道「義」に殉じた、彼らの生き様は哀しくも美しく、強烈である。
文芸社、2000円+税、長篇歴史小説。
位置づけとしては『歳三往きてまた』の前編にあたる。
著者が「秋山香乃」として本格的に小説家としてデビューする前に「藤原青武」というペンネームで出版した『SAMURA
I 裏切者』のリメイク版。
本書の主人公、藤堂平助は沖田総司・永倉新八・斎藤一などと共に新選組四天王の一人にあげられる剣術の達人であった。
しかも試衛館時代には食客であり、新選組創設時のメンバーでもある。
にもかかわらず、他の隊士に比べてやや印象が薄い(ように思う)。
池田屋事件をピークに翳りの見え始めた新選組から離脱し、後の隊士募集で合流した伊東甲子太郎らと共に御陵衛士として、新選組と対峙している薩摩と手を結び、倒幕へと向かい、悲劇の最期となる。
藤堂は津藩和泉守藤堂家の御落胤であったいう噂もある。
しかも細身で美形、本書で描かれている藤堂も儚げで繊細—にもかかわらず、芯は頑なまでの強さを秘めている。
土方歳三に惹かれてやまない自分と、それ故に土方の立場上からの非情さ・冷酷さ、幕末という時代の流れの中で、藤堂は葛藤し続け、ついには裏切り者へとなっていくのだ。
本書では主人公藤堂平助と、土方歳三の愛憎が幾度も場面を変えながら描かれている。
だからこそ、『歳三往きてまた』で語られていた土方の藤堂に対する、並々ならぬ愛惜の念が理解できるのである。
先に『歳三往きてまた』を読んでしまったが、本書から読んだ方がしっくりする。
(2003.10.31初版発行)
NHK出版、1800円+税、長篇歴史小説。
新選組の一番隊長として、剣一筋に生きた若き天才剣士沖田総司の物語。
江戸牛込柳町にある天然理心流の道場試衛館に内弟子として寄宿している総司は、日々剣の道一筋に修練を重ねていた。
そんな総司も時代の流れにのみ込まれるかのように、試衛館の面々と共に京へ上る。
近藤勇・土方歳三の熱き思いに応えるかのように、新選組の一番隊長として、戦いの渦中に身を投じていく。
己の肉体を蝕む病魔と闘いながら、ひたすら総司が追い求めたものとは…。
鬼の副長と恐れられた土方歳三をも、試衛館時代の優しいトシさんにさせてしまう総司だが、全編を通じて描かれている長州の久保裕次郎との交流も時代を象徴しており興味深い。
『新選組藤堂平助』とほぼ同じ時代の新選組を描きながらも、藤堂と沖田とでは、北辰一刀流と天然理心流という異なる流派であるがために、いつしか新選組での居場所も異なってしまったように感じる。
藤堂も沖田総司も悲劇的な最後ではあるが、前者は御陵衛士として新選組を裏切ったという思いと、滅びゆく運命にあるのはわかっていながらも最後まで新選組隊士として人生を全うした後者とでは、どちらが幸せであったのだろうか。
著者の新選組関連の本を読みつつ、できうれば斎藤一を描いて欲しいとつい思ってしまった。
会津の間者であった斎藤一から見た、新選組と幕末を是非語って欲しい。
(2003.10.25初版発行)
文芸社、1800円+税、長篇歴史小説。
京都守護職を拝命し、忠義一徹に朝廷と幕府に仕えたがために、幕末の動乱時に「朝敵」の汚名をきせられ、貶められた会津藩。
本書は、その会津藩の若き軍事の天才である、山川大蔵(後の浩)を主人公に、会津炎上から苦渋の斗南藩移住、やがて各地で勃発する元士族たちの戦争、最後は西南の役と、激動の時代を描く大作である。
幕末時、政治的生贄となった会津藩の悲劇が胸を打つが、朝敵・国賊の汚名をそそぐために、身命をなげうち、ひたすら会津藩の名誉回復に奔走する男たちが見事である。
当時、会津藩には山川大蔵をはじめ、文武両面に秀でた人材の宝庫であったのだが、艱難辛苦を乗り越えていく姿には深い感動をおぼえる。
敗者となった側から語られる、もう一つの明治維新とでもいえようか。
また勝者となった大久保利通、岩倉具視、西郷隆盛、江藤新平といった歴史を彩る人物をはじめ、新選組三番隊長として活躍した齋藤一が、本書でも重要な役回りを演じている。
(2002.11.30初版発行)