新潮文庫、804円、長編。
室町幕府の旧体制が瓦解し、戦国時代に突入していく過渡期である「後南朝時代」を描いた作品。
建武の中興を成し遂げながらも、足利尊氏に敗れ、北朝に皇統を奪われた後醍醐天皇は、幕府に対する怨念を三つの能面に刻み遺して、逝ってから百年が過ぎた。
南朝再興に尽力する北畠宗十郎、また北朝を擁立している足利幕府六代将軍足利義教の腹心である朝比奈範冬は、その能面を入手すべき探索を開始するが・・・。
面に隠された、幕府を崩壊させるほどの秘密とは何か?
幕府を否定する後醍醐天皇の怨念と、帝を否定する足利義満の敵愾心がぶつかりあい、その紛争の種は孫子に受け継がれて数多くの争乱を巻き起こしていく。
「本作品は、後醍醐天皇の無念をよびさます一つの能舞台のようなもの」とは、著者自身の言葉である。
まさしく、ずっしりとした読み応えは、能舞台そのものといえるかもしれない。