ミーンミーン……。 何十年も何百年も蒸し暑い夏は蝉の鳴き声と共に、そして貴方と共にすごしてきた。 毎年うるさく鳴く蝉の声だけど地球温暖化のせいか年々蝉の姿を見なくなっているような気さえする。暑いのは人間だけでなく虫も同じなのでしょうか。夏の風物である蝉の鳴き声—— どこかに存在するはずなのに姿をなかなか見せない。まるで幻のようなもの。捕まえようとする意志があればそれは幻ではなく自分で手にいれられるかもしれないのだけど…。 夜中になると昼の暑さはなんだったのかというくらい心地よい風が吹き、寺の境内を涼しくさせる。実は夏休みということもあってあの人…あの方が私の実家に遊びに来てくださいました。口でいうのは簡単ですがココまで来てもらうのには本当に一苦労いえ二苦労(いえ十苦労くらい)しました。 第一に妹ミヤさんの存在です。高耶さんは本当に妹想いのよいお兄さんですから、ミヤさんを残して一週間も私の実家に来ることには抵抗があったようです。しかし、なんのその私はミヤさんとも高耶さんを通して仲良くさせてもらっています。 「直江さん。いつも兄がお世話になっています。お兄ちゃんはいつも私のことを考えていてくれて嬉しいんですけど、もっと自分の幸せのために過ごしてほしいんです。」 と、この前の高耶さんの誕生日【7/23】の前日に会ったとき私に密かにおっしゃったんです。だから私はミヤさんにディズニーシーのチケットをさしあげて 「友達と遊んでくるといいですよ。その間、高耶さんは私の実家に来てもらっていろんな所を案内してあげたいと思っているんです。」 というと本当に嬉しそうにニコッと微笑んでいらっしゃいました。これで難なく第一関門突破!<パッパカ パッパ パー♪> 第二は高耶さん自身ですね。遊びにくるという名目で私の実家に来るとはいうものの私の両親や兄姉に遠慮があるのでしょう。400年間ずっと主と家来という関係にあった私達ですが、現世では様々な障害を乗り越えこうして恋仲(直江だけが思っているのかもしれません。そっとしておいてあげましょう。)になっているのですからね。そのことに関しては高耶さんの誕生日の夜に私が安心してくれるよう何度も何度も説得したかいもあり高耶さん本人の承諾も得ることができました。第二の関門も突破!!<パッパカ パッパ パー♪> そして一番大変だった最後の関門。今でもどうしてこの関門を潜りぬけられたのか分からなかったりします。譲さんの存在ですね。 高耶さんのご学友である譲さんは、 「一週間も直江さんの実家に行くの?ねぇ〜高耶。直江さんのとこ行くのはいつでもいいんじゃない。だいち直江さんちってお寺でしょ。お盆とかもうすぐあるし大変なんじゃない。鈴鹿に行ってバイクのレース見にいこうよ。ホラッこの雑誌見て!高耶の好きなレーサーが3日後のレースに出るみたいだよ。」 と、高耶さんを誘われたりしたものだから私もヒヤヒヤしていたのです。バイク好きの高耶さんですから譲さんの誘いには頭を縦に2,3回ほど振って承諾するかと思っていて内心不安でしたが、何はともあれこうして高耶さんは私の実家に来てくれているわけです。譲さんより私を選んでくれたと自惚れてもいいのでしょうか。フフフ。 いつもだったら人手が足りなくて私も父や兄の手伝いにまわされるのですが、お盆まではもう少し日があるし高耶さんが来てくれたということもあって家の皆は多少気遣ってくれたようです。私は高耶さんと夕食にでかけました。 「高耶さん。どこか行きたいところありませんか?」 と聞いたところ高耶さんは、 「宇都宮には餃子像があるんだよな。オレ、一度見てみたかったんだよな。宇都宮っていったらやっぱり餃子だろ。本場で食べなきゃだめだよな。」 と、ウンウンと頷きながら爽やかな笑顔で私を見つめていました。本当はイタリア料理の店を予約していたけれど貴方が行きたいのならどこにでもお連れしますよ。実際、宇都宮が餃子の本場というのはどうなのかは怪しい。ただ日本で餃子の消費が一番多いというだけなのだが、そんなことはどうだっていい。高耶さんが喜んでくれることが私の一番の幸せなのだから…。 高耶さんは餃子を満腹になるまで食べていました。直江も食えよと誘ってくださるのですが、私は結構ですからといい高耶さんが美味しそうに餃子を頬張る姿を横から見守っていました。餃子像の前では実物を前に見ているだけではものたりず写真を撮りたがっていたのを私は知っていますよ。長野の松本では不良で通っていた貴方だから餃子像を前に写真を撮るなんてできるかと思っていたのではありませんか。そんなところも可愛らしいですよ。貴方の前ではそんなこと口がさけても言えませんがね…。 楽しい夕食の時間も終わり、人間の三大欲求である食欲を充分に満たした高耶さんは、とても気分がよさそうです。そろそろ家に帰ろうと愛車ウィンダムの助手席に高耶さんを乗せ駐車場を出ようとした時、高耶さんは私に 「ありがとう直江。連れてきてくれてうれしい。またこような。……オレはオマエさえいてくれたら他は何もなくても幸せなんだ。」 とぶっきらぼうな笑顔で下を向き、頬を赤く染めながら言ってくれたのです。急にどうしたのだろう。それに普段だったらこんなことは言わない高耶さんなのに…。そう思いながら息をひそめ高耶さんが何か語ってくれるのを待っていたら高耶さんは俯いていた顔をあげ、まっすぐ私を見てつぶやきはじめました。 「オレはオマエにとっての『旅籠』のような存在でありたいと思っている。200年前、夜叉集が解散寸前のことがあって晴家が抜けようとしていただろ。オレはそれをとがめなかったし、オマエを含めた他の夜叉集にも別にこのまま夜叉集に残らなくてもいいみたいなことを言ったよな。でも内心オレはオマエが傍にいてくれることを望んでいたのかもしれない。あの時代はなんだかんだ旅籠をよく利用していたよな。皆、気持ちはバラバラだったけど旅籠って場所に来るとなぜかほっとした。もともと『旅籠』って旅人の疲れを癒す役割を持っているだろ。オレはそんな『旅籠』のもつ役割をすっげーなって思う。だからなぁ…オレは『旅籠』のようにオマエを心身ともに癒してやれる存在になりたいんだ。200年前オマエがオレの傍にいることを選んでくれてよかったなって思ってよ。今こうしてオマエが隣で笑っていてくれることが嬉しいんだ。」 と、昔を少し思い出しながらも今をみすえている高耶さんを抱きしめたい気持ちになった。 「私も貴方だけの『旅籠屋』になりたいですよ。いつも安心して貴方が眠ることのできる腕になりたい。200年前貴方がイヤだといっても私は貴方の傍を離れることはなかったでしょう。これからも離れたりはしません。貴方は心の優しい人だから貴方が営む『旅籠』には私だけでなく困っている旅人をも迎えるかもしれませんが、私が営むのは貴方専用の『旅籠屋』ですよ。昔も今も貴方のことしか目にはいりません。」 と言い返し、そっと高耶さんの唇を奪った。 しばらくするとスースーという規則正しい高耶の寝息をBGMに実家まで車を走らせた。私達、換生者はこうして何年も何百年も姿を換え、住処をかえて地上に存在している。様々な紆余曲折を越え、今私たちはここにいる。こうして隣にいる存在に対し、200年前は自分で手に入れようとする努力をしなかった。400年たった今自分で手に入れようと努力し、貴方と向き合えた。ほっておけば幻で終わってしまっていたかもしれない…。今の幸せはなかったかもしれない。 「本当に私の『旅籠』になってくれるんですか?嬉しいですよ。今は静かに瞳を閉じて貴方専用の私の『旅籠屋』で休んでくださいね。」 初小説です。文がおかしいですね。「旅籠」ばっかり言っててわかりづらいっすね。直江視点で、直江の脳内日記ですね。はじめての小説なんでHP名にどうして『旅籠』をもってきたかが分かるようになっているかもしれませんね。ここで出てくる『旅籠』っていうのは癒しを与える空間だと思ってもらえればいいです。直江のほぼ一人称なので“高耶さん”と何回もいっています。はっきり言って読みづらいハズです。短編にすることを目標にしていたので凝縮した部分もかなりあります。もうちっとはげみます。次からは作者視点っちゅうのでやってみます。タイトルはミッチーの「フィアンセになりたくて」からもじったようにもみえますが、そんなことはないのです。作品にについてですが、果たしてミヤさんや直江の家族は直高ラブラブのことを知っているのでしょうか。ご自由に想像してください。あぁ〜クールでカッコいい直江と高耶さんを書いてみたいです。 (2004/08/03、08/06一部修正) |