明日も明後日も笑っていてね。
僕の知らないところで、僕の知らない笑顔で、
それでも僕は知らない君も愛すから。


彼の爪


最近じゃあ減ってきたブラウン管の向こうに笑顔の君がいた。
一目で好きになった。
好きなんて言葉じゃ語りつくせないよ。
でも君は手の届かない場所にある。虚像の世界の住人。
安アパートで写りの悪いテレビを見てる俺にはとても、
君の写真を買ったんだ。
初めて見た時と同じ顔で笑う君。
僕はこの顔しか知らない。
君は泣くの?怒るの?これは本物?
本物の君が欲しいよ。
なんでもいいんだ。
かつての暗殺された歌手のように、髪の毛一本だっていい。
どんなに些細なものでもいいんだ。
お金なんて大した問題じゃない。
ただ本当の君に触れたいんだ。

僕は見つけた。
狂いそうだ。
嬉しくて吐きそうだ。

電波の中で見つけた。
君の爪を。
他人が聞いたら笑いそうなくらいお金を出した。
これで君は僕の元に。
小さな小包で届く君は凄く素敵だった。

指先でそっと触れて、口付ける。
あぁ。これをこんなにも待ち望んでいたのに。
求めていたのに。
如何してかな。
君の爪はとても素晴らしくて、見つめる程に、
楽園を与えられても尚禁断の果実を食したアダム達のように僕に欲を生んだ。

僕はもっと君に触れたい。

君の爪を全て剥ぎ取って口付けたい。
でも君には笑って欲しいから。
まだしない。
いつか君があの日のように笑わなくなったら、僕は君の爪を探しに行くよ。




 モドル