モノローグ

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トップ アバウト

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 花菱やすえ(31才 スナック勤務)

 ええやないの、あんた、勃起させたってええやないの。あんたうちのこと見て興奮したんやろ。せやったらしゃあないやん。勃起させたってしゃあないやん。勃起させたってしゃあない、言うたらしまいやん。いやいやちゃうねん。しまいやんゆうのは、おちんぽしまえ、ゆう意味とちゃうねん。おしまいや、ゆうこと。ハルマゲドン。ある意味ハルマゲドンやん。勃起させたってしゃあない、言うたらうちらハルマゲドンやん。ちゃうか。ちゃうんやったらちゃうって言うてほしいねやんか、ほんまに。

 もういややわ、うち今日どないしたんやろか。ほんまいつもはこんなんちゃうんやで。いつもは言うてもうち、花で言うたら梅の花、そないに大声も出さんと静かなもんやねんで。それが今日はどないや。梅やない、今日のうち、まるでハイビスカスや。目にも鮮やかハイビスカスや。南国の女やさかい、ごっついハートに正直になってるんかもしれん。言うわ。うち、言うわ。あんたとしたいねん。そうそう、ぼくはまるで死んでるようなもんです、ってちゃうわ。あんたは死体、ちゃうわ。あんたとしたいねん。ほんまうち、今、あんたとしたいねん。もうええわ、服、脱がせたる。

 あっ、何やこれ。あんたこれ、もうものごっついことなってるやん。恥ずかしいわうち。でもな、ほんまはちょお、うれしいねやんか。分かるやろ。うちの口臭、もうごっつ獣の臭いしてるん分かるやろ。ビーストや。うちら二人、宇宙の真下のダブルビーストや。あかん。もう我慢できん。もう我慢でき、えい、ぱくっ。うっ。くさい。でもうまい。あんたのおちんぽまるで干物やな。えらいにおいしはるけど、でもやみつきに、って阿呆、これうんこやないか。おちんぽかと思たらうんこやないか。何でうんこぶら下げとんねん、ちょおどおいうこと。スタッフ呼んできてー、ってうちは誰やねん。阿呆。自分うんこくわえさせて、ごっつ満足顔やん。あかん、意味分からんわ、ほんまに。どういうことやねん。

 でもな、これだけは言わせてや。うちあんたのそういうとこ、そないに嫌いでもないんやで。なあ、分かるかいな、この女心。分からんやろうなあ、東京もんのあんたには。うちほんまは吉本に入りたかってん。ハイヒールに憧れててんよ。

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 藤本祐吉(36才 自動車修理工)

 童貞だからかな、目の奥が痛むんですよね。目を閉じてる時はそうでもないんですけど、ちょっと開けてるだけでもう駄目で、痛くて痛くてねえ。ひどいもんです。セックスでもできればそりゃちょっとは楽になるんでしょうけど、童貞でしょう。精液がたまってねえ、きっとそれが原因じゃないのかな。目の奥がごろごろして、もう今でもこうしてるのがやっとで、もしかしたら精液が体の中で発酵してるんじゃないかって。よくあるでしょう、そういう話。何かが発酵して誰かが傷付く話。まさにそれだと思うんですよね。ぼくの中で精液が発酵して、それでぼくが傷付いてる。よくある話ですよね、実際のところ。

 ただ別に、それが嫌だっていうんじゃないんですよ。例えばそう、スキー場に行って寒さに対して怒ったりとか、そんなことは誰だってしないじゃないですか。ぼくも同じですよ。ぼくがこの年にもなって童貞だっていうのは、そりゃ社会とか世間とか政治のせいとか、あるいは空が青すぎるからとかってそんな理由もないわけじゃないけど、でもやっぱり結局はぼくのせいですからね。六対三ぐらいでぼくのせいだと思ってます。つまり、二対一。倍ですよね。ざっと倍です。ぼくはつまりざっと倍の童貞だってことですよ。それだけでずいぶん大きく見える。そう、言い方の問題なんですよ、何にしろね。

 だからもう、全て仕方ないことなんですよね。ぼくが童貞だっていうことも、精液が発酵するってことも、それが原因でぼくの目が痛むってこともね。これはずっと内緒にしてようかと思ってたんですけどね、さっきから体ん中でプチプチ音がしてるんですよ。スプライトの泡が弾けるみたいに、ぼくの中の精液がプチプチ音を立てて踊ってるんですよ。表現が詩的すぎるんだったら謝ります、でも事実だ。ぼくは今、中の方から泡立ってる。喋るたびにカルキの臭いがするんですよ。まいったな。目の奥も、本当は泣きたくなるくらいに痛いから、さっきすりこぎで潰してきましたよ。血が止まらなくて話にならない。最悪です、本当にね、延々痛くてたまらないんだ。

 でも仕方ないんです、だってぼくは、童貞だから。童貞には童貞なりに世界からやられるものだし、だから童貞は童貞なりに世界をやらなくちゃいけないんです。精液の発酵は、世界からやられる方。じゃあ世界をやる方はっていうと、こりゃあもう、ごめんなさい、いまは思いつきません。童貞だから勝負弱くてね。すいません、本当に。申し訳ないけど、これもまあまた、よくある話ってことですよね。

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