おねえさん


私が小学校に上がる前の話である。
今は引っ越してしまったのだが、当時近所には
すごく綺麗なおねえさんがいた。
彼女は私を含め近くの子供たちを集めては
よく知らない遊びを教えてくれた。
多色刷りを利用した折り紙の折り方や手話の
ように手を使った伝達ごっこなどは今でも憶えている。
いつもやさしさに満ち溢れていたおねえさんは、
女の子たちにとって憧れであり、男の子たちに
とってテレビよりもずっと身近なヒロインだった。
ところがある日のことである。
今でも鮮明に憶えているのだが、あの日の彼女の
表情はまるで別人のようだった。
遊びに行った私たちを忘れてしまったかのように相手
にせず、椅子に腰掛けて外の景色ばかりを眺めていた。
「どうしたの?」
尋ねたのは幼馴染の真帆だった。
振り返ったおねえさんはドロリと魚が腐ったような目を
して私たちに聞いた。
「ねぇ、正しい嘘ってあると思う?」
私はおねえさんのいつもと違う様子に戸惑ってしまい、
何も答えることができないでいた。
しかし優等生気質の真帆は
「ううん、ウソはダメってお母さん言ってたもん!」
と、少し興奮気味に答えた。
「そっか・・・」
おねえさんはまた押し黙り、1度だけため息をついた。

あれから20年近くが経った。
いくつか恋もし、失恋もした。
私は平凡なサラリーマンとなってしまったが、真帆は今や
弁護士の卵となって頑張っているようだ。
真帆はあの日のことを憶えているのだろうか?
私は、今でも時々あの日のことを思い出す。
そしていまだにあの日の答えを見つけることができずにいる。

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