本能


古い屋敷の地下にある
たったひとつのヘンシタイ

ひと月前の夜
あたしは指輪を捨てた

「あなた」はいつも私を悲しませた
「あなた」はどこか悲しい目をしていた

でも本当は気付いていた
「あなた」の言葉の全て
その温かさ

全て過去の話なのに・・・

朝
あたしは新しい「彼」と出会った

「彼」はいつも優しく微笑んでくれた
「彼」はいつも優しく手を差し伸べてくれた
不満?
ううん
満足だけど・・・でも・・・
でも?
温もりが欲しいの?

「あなた」と違う「彼」

昼下がり
あたしは言葉を捨てた

新しい「彼」を本能で求めるため
そしていつか自由になるため

欺瞞,自己嫌悪

『あたし,もう駄目なのかなぁ・・・』
つぶやいて少し泣いた

逃げていく太陽

突然の目眩
黄昏れ

あたしの願い
「彼」に手錠を掛けてもらうことを願った
「彼」はそれを拒んだ
あたしの願い
「彼」に首輪を掛けてもらうことを願った
「彼」はそれを拒んだ

「彼」が定義した「優しさ」
あたしを縛りつける「優しさ」

「彼」はそれを拒んだ


あ!
ああ!
あああ!
ああああ!

自由?自由!自由!!

ついにあたしはその両目から光を奪い去った
ついにあたしはその両脚を
ついにあたしはその両腕を

いらない
そんなの
いらない
そんなの

身をよじった
あたしの真っ白い肌の上
真っ赤になって溢れ出て行った
記憶ばかりが
記憶ばかりが
「彼」との
記憶ばかりが

捨てたはずの言葉で言った最後の
「さよなら」

そしてまた夜が来た

多分あたし笑顔だったと思う
久々にみせた笑顔だったと思う
二度と見せることのない笑顔なんだと思う

聞こえることのない耳であたしが聴いたもの
やっぱり「あなた」の言葉
最期に
見えることのない目であたしが観たもの
やっぱり「あなた」の温もり
最期に

ごめんね
あたし間違ってたんだね

古い屋敷の地下にある
ふたり抱き合うヘンシタイ

「あなた」に会えるよ・・・

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