アシッド映画館1998年1月放送 「THE PEACEMAKER」

 

「映画ファンは決起する時やで!!今、映画、観に行かんかったらいつ観に行くねん!!」

 

平野:ようやく、この大傑作を観ていただける時が来たと。

鳥居:そうですね。

平野:というところでですね、この映画を見終わった瞬間にすばらしいという絶賛の声をこの番組のたしか冒頭だったと思います。

鳥居:そうだったと思います。

平野:あげてしっまたかもしれません。そこからみなさんの期待はですね、どんどんどんどんと膨らみ まあ、あのう当時はお正月映画としての公開だったんですが、なみいる大作そして「もののけ姫」のロングランということもあって年越し1月15日に公開になってしまったと。ですから「タイタニック」とか「エアフォース・ワン」とか「メン・イン・ブラック」とかそういう大作がくるというところに、ちょっと時期をずらした方がいいんではないかという作戦も、まあ、もちろん、あったんでしょう。

鳥居:あったでしょうね。

平野:配給のUIP映画としては確か初めてだったと思います。お正月の12月に自社の大作ラインナップが出ないというのが初めてのことだったと思いますけどもね、それだけにこの蓋の開いた1週間の動向そのへんが楽しみな所だと思います。

鳥居:そうですね。

平野:先だって行われた先行オールナイトではかなりハイアベレージを記録していると。

鳥居:あ、そうですか。

平野:という所なんでまさにそう映画を見続けてきた人も、なかなか映画を観てない人も含めてね、やっぱこれぞ面白い映画だというのをまず映画館に味わいに行ってほしいなと。

鳥居:そうですね。

平野:という風にまず純粋に思いますけどもね。さあ、そういう話を受けてみなさんが試写会で観られた感想を番組宛に色々とよせられておりますが。

鳥居:そうですね、あの、ほぼねえ褒めてるハガキが多いんですが、まずはこちらの人は「最初は画面が暗いのと状況が難しいので眠気もあったんですが、あとはテンション上がりっぱなし、社会的な問題も描きながら、カメラもストーリーもタイトルの付け方までもカッコよすぎる。でも一番よかったのはニコール・キッドマンのいい女っぷりだったかもしれません。」それから、こちらは「この映画の傑作な所は編集のうまさで、ものすごいドライブ感を観客に感じさせるとこだと思います。ハイテンポで見せ場をつなげて2時間、全く飽きさせないことに成功しています。カーチェイスもすごい、めちゃくちゃカッコ良すぎて鳥肌が立ちました。ミミ・レダーの次回作が待ち遠しい。」それから、こちらは「ピース・メーカー面白かったです。ミミ・レダーは絶対、押井守の作品を観まくってるに違いない。オープニングのあのシーン、おお赤いメガネ(笑)。ほんとにタイトでいい映画だったと思います。ちょっと地味だけど売れてほしい映画です。」ということでね。

平野:はい、ええ。

鳥居:まあ、そういうふうな褒めちぎるものがある中で数少ないんですが面白くないという意見もありましてね、こちらは「平野さん一押しのピース・メーカーでしたが僕にはそれほどの映画ではありませんでした。つっこめたという意味では面白かったでが、それにジョージ・クルーニーとニコール・キッドマンの中途半端なキャラクター設定、この2人にしてもこの映画に出たメリットはほとんどなかったんではないでしょうか。」というね。

平野:うーん、なるほど。

鳥居:で、つっこみポイントがいっぱい書いてあるんですが、うーん細かすぎて(笑)まあいいかなという私の場合はね。

平野:いや、もちろん、人によって映画の見方は違う訳ですけれども。

鳥居:そうです、全然違います。

平野:まず、鳥居さんもこの映画、すばらしかったというふうに言っておられるわけで。

鳥居:面白かったですね。

平野:まず味わっていただきたい所、まず第一になんでしょう鳥居さん?

鳥居:ええ、私もね編集のすごさこれはすっごいと思いましたね。アニメ観てはるんちゃうかなと私も思いました。

平野:はいはいはい。

鳥居:編集の面白さとかカメラワークの面白さってやっぱアニメってすごい勉強になるじゃないですか。で、もちろんその赤いメガネのシーン、夜間の赤外線のあのシーン私も押井守さんがぱっと浮かびましたもんね。面白かったですよ。最初の核の爆発からニコール・キッドマンのプールのシーンになるでしょう、あそこなんかすごいよね。

平野&鳥居:つなぎ方がすごいよね。

平野:で、まあ編集というのはまた別の人がやってるわけで監督のミミ・レダーのテクニックというところでいえば、この映画で一番押したいのはやっぱ監督ミミ・レダー、女性監督なんですけどもこのミミ・レダーのまあ男性にも考えられないくらい緻密でなおかつダイナミックそして、そのアニメ押井守を彷彿とさせるすばらしい演出力と画面設計、本当に監督の演出力という点ですよ。ここはすごい!

鳥居:そうそうそう、そうですよね。

平野:もともと「ER」というシリーズの全話じゃないです、1話か何話かとんでつくってる人なんですけども「ER」というテレビシリーズを御覧になった方はもちろんですし、まだ御覧になられたことがない方でもちょっと思い浮かべていただきたいのは例えば救急車が到着してER(エマージェンシールーム)まで患者が運ばれるという、その医療ドラマですよね。ほんで救急車が病院の非常受付みたいなところに横付けになって観客を降ろす、タンカに乗せた。

鳥居:観客?患者や。

平野:ああ患者を乗せた。そして、そこにざーと一斉ににですね点滴をする人だとか脈を計る人だとか、ばあーと来てそのまま同時進行でタンカを乗せた台というかこう車輪の付いたベットをね、ガーと病院の廊下をシャーとワンショットでシュルシュルシュルと移動していくんですよ。それをすべてワンショットでドリーというまあ、あのレールを付けたカメラで撮ったりもいろいろしてるんですけども、あのカメラの躍動感、その到着した非常口から手術台、エマージェンシールームまでワンショットで見せるっていうあの流れるような展開を創り出した人ですよ。ある種。

鳥居:あの緊張感ね。

平野:病院でそれやったんですから、こういう核テロリストみたいなものをテーマにした時、敵の基地に潜入していったり、その最初に出てくる核兵器を積んでる列車にシューと入っていく時とか、まさにミミ・レダーのテクニックを最大限に発揮できる映像なんですよ。

鳥居:そうですね。

平野:ええ、そして今、いろいろ言われてるところではスピルバーグ監督が一押しでもう惚れに惚れてミミ・レダーという人を大抜擢したと。ミミ・レダー実際、見たらたいしたことないおばはんですわ、はっきりいうて。ですからスピルバーグがこの女に女性として惚れたということはまず、ありません。これは断言しときましょう。

鳥居:はっはっはっは。

平野:そうじゃなく、彼女の演出力とモノの見方、スピルバーグにはこの画面設計、このモノの見方は俺にはできへんなとスピルバーグに思わせたんですよ。ということは自分にないものを持ってる人間を育てたい、もっとこの世の中に出てほしいという願いをスピルバーグは持ってるわけですから、自分と同じことする奴はだめなんです。自分と違う、そして自分に持ってない才能を持ってる子をどんどんピックアップしていこうという考え方ですからまさに演出力をスピルバーグが認めた演出力というものをこの映画で味わっていただきたいなあと。

鳥居:そうですね。だって監督第1作でよ、ドリームワークス第1作でよ、この人を監督にキャスティングでですよ、これもすごいですけど、この期待に見事に応えていますよね。

平野:そんでね、ほら、ようあるじゃないですか。「ダイハード3」みたいなとこでもね、ニューヨーク中をうろうろするっていう、こういうシーンもこの映画で出てくるんですけどね、よく観ているついつい観客が陥ってしまうのは、なんか一生懸命走ってはんねんけど今、どんだけの距離をどういう状態で走ってんねやろうという地図を思い浮かべることができなかったりするじゃないですか。

鳥居:うんうんうん。

平野:ところがこのミミ・レダーという人はね、そういう演出をみせるときにさりげなく位置関係が分かるような地図であったり、カットっていうのをポンポンポンとものすごくきめ細やかにはさみこむんですよ。

鳥居:ふんふんふんふん。

平野:で、よくアップになったら、それがなんか複線ちゃうかと思ったりするじゃないですか。

鳥居:ええ。

平野:最初に主人公がたまたまなにげなくポッケトに入れたスパナがね、一瞬アップになったらあっ最後にそれを使うんやな、逆転するねんなっていう見え見えのアップってあるじゃないですか。そうじゃないきめ細やかな演出も出来てると。これぞ女流監督のまあいうたら最大の魅力ではないかなと思いましたね。

鳥居:なるほどね。

平野:かつてキャサリン・ビグローという女性監督がいてこれがキャメロンの元嫁やったんですけどこの人が「ブルースチール」というすばらしい映画を撮ったんですがあの時はちょっとフェチな感じがしたんですよ。ところがこのミミ・レダーという人はどちらかというとフェチなところではない、純粋に娯楽映画を作れると。

鳥居:そうですね。大作映画を作れる人ですね。

平野:ジョージ・クルーニー良かったわ。

鳥居:ジョージ・クルーニーがね、最初心配だったんですよ私はね。ソフトな感じのイメージだったじゃないですか今までは。今回は軍人という設定でテロ対策のトップの人でああいう感じがうまくできるのかなと思ってたんですけど、すごく上手というかちゃんと役になってましたよね。

平野:で、あのう不評な方のいろんな意見を聞くところによるとストーリーがちょっとややこしいと。だからね、このややこしさがアメリカの興行にむすびつかなっかたと。

鳥居:ああなるほど。

平野:複雑すぎて。

鳥居:分からへんわけや、謎解きが。だめよ、そんなこと言ってちゃ。

平野:そうです。そんなね、アラブ人がテロリストで出てくるだけの映画もうやめてって言いたいわ。そりゃアラブ人も文句、言って来よんで。

鳥居:でね、社会的なことをいれてるでしょう。それもすごくしつこくなく。あの設定で犯人がそこに陥るまでの理由としての設定って現実としてはもっとひどいことがたくさんあったのだろうと思うわけよ。

平野:うんうんうんうんうんうん。

鳥居:彼がああなるっていうことは必然的にとてもよく分かるわけよ。

平野:よく分かる。

鳥居:よく分かりますよね。

平野:あのね子供を持ってる親、ですからおっちゃんに聞いたらね、おっちゃんという世代の人に聞いたらね、あそこで泣いたって言うてたわ。子供を持つ親の立場からしたらね、これはすごく感情移入できたねと。単なる金目当てのテロリストではないという設定ですわ。そういうところをやっぱりね細かくあじわっていただけたらね、この映画、存分に楽しんでもらえるというふうに思いますよね。

鳥居:そうねえ、面白いと思うわ。

平野:それと人が無意識というか無差別というかどっちかというとなんかあっさり死んでしまうとこなんかも出てくるです。そこがいややなっていう人はもちろんいらしゃるんですが、それはこういうタイプの映画ですから、そこはちょっと言わんといてって。弁護したいなあと。

鳥居:あくまでもエンターテイメントですのでね。そのあたりはね。

平野:そして、この2人の主人公の行く末もよくあるパターンに収まらず、やっぱりこうちょっと最後に余韻を残すというところがね、やっぱりハリウッド映画でありながらハリウッド映画ではないというなんか、おもわず大絶賛してしまいましたね。

鳥居:そうですね、また力を込めて大絶賛してしまいましたね。

 

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