青少年へのテレビメディアの影響


Ⅰ、調査目的

 この調査の目的は、テレビを中心としたメディアが青少年に及ぼす影響を検討することにある。テレビは情報収集の手段として、また娯楽として、青少年の生活に深く根付いた重要なメディアとなっている。他方、青少年の問題行動の一員にテレビの影響があるのではないかと指摘する意見もある。この点について、私たちの国でもいくつか研究調査はなされてきたが、それらは、ある時期の青少年の意識や行動の対応を捕らえ、テレビ視聴との相関関係を分析するにとどまっており、因果関係に対して示唆を得るには、子供の成長を追いかけ、以前の要因が後の行動にどのように影響するかを明らかにすることが欠かせない。そこで、本調査では小学五年生が中学二年生になるまでの四年間を追跡し、テレビを中心としたメディアの影響を子供の発達過程・生活空間の中でとらえる。

Ⅱ、調査方法

・調査方法—個人面接法による面接調査
・調査対象—小学五年生の子供1500人と中学二年生350人とその養育者
・対象者抽出方法—住民基本台帳により該当者を系統無作為抽出
・調査手段—調査員が対象者宅に訪問し、子供用、保護者用のアンケートを面接調査して実施、回収
・調査地域—首都圏40km圏
・調査実施時期—2001年2月16日〜2月25日

Ⅲ、主要結果の概観・考察

①子供の生活リズム

 小学五年生は、約90%が何らかの習い事をしている。
・男子は「野球、サッカー、バスケットボールなどの集団スポーツのクラブ」(50%)
・女子は「ピアノ、エレクトーンなどの音楽の習い事」(45%)が中心である。

 1日あたりのテレビ視聴時間は2〜3時間程度が約55%いる。

 終身時間について、11時過ぎまで起きていることが「ほとんど毎日」なのは約14%である。いつも11時前に就寝するのは約29%で、また、約70%が12時前には就寝する。

 中学二年生は、「学校の勉強のための塾」に通うものが最も多い(男子41%、女子29%)が、その他の習い事に通っているのはいずれも20%未満で、「何も習っていない」子供が約24%いる。一方、部活動に所属する中学生は90%以上いる。終身時間について、11過ぎまで起きていることが「ほとんど毎日」なのは約46%である。いつも11時前就寝するのは約5%、12時前に就寝するのは約28%である。


②テレビ、その他の子供専用機器の所有状況

 小学五年生において、子供部屋にテレビがあるのは、約35%である。子供部屋にテレビがある子供も、そこでのし長時間は、一時間以内のものが約73%である。その他のメディアで子供専用のものとして持っているのは、テレビゲームが約66%、携帯電話・PHSが約7%である。

中学二年生では、子供部屋でのテレビ所有率は約48%、そこでのし長時間が一時間いないなのは約56%になる。子供専用のメディアとして持っているものは中学生で多くなり、ラジオが41%(小学生は18%)、携帯電話・PHSが22%である。


③テレビ視聴形態

 小学五年生において、「見る時間が決まっている」のは約37%、「その日見ることにしていた番組が終わったらテレビは見ない」のは約34%と、どちらかというと決まりにこだわらない視聴形態をする子供が多い。「一人で見ることが多い」のは、中学二年生で多い(小学5年生約26%、中学二年生約45%)。

 また、小、中学生とも、約80%の保護者が「子供と一緒にテレビを見る」ことがあるが、「子供の見る番組や時間帯を決めている」、「子供に見せたくない内容はチャンネルを変えたりして見せない」について、小学五年生の保護者の過半数が行っているが、中学二年生では30%前後にとどまる。一方、「見ている内容について子供と話をする」、「見ている内容とは別の考えもあることを話す」のは、小、中学生の保護者とも70%前後が行っている。


④視聴番組の種類・好きな番組

 小学五年生はアニメをよく見る番組としているものが多い(約83%)が、中学二年生は、ドラマ(約63%)、歌・音楽番組(約55%)など、見る番組の種類は多様化する。ただし、小学五年生でも女子はドラマや歌番組を視聴するものが多い。

 笑いやコントなどのバラエティーは、小学五年生、中学二年生ともに50%前後が視聴している一方、ニュースは小、中学生ともに20%程度にとどまる。

 保護者は、約78%がニュースをよく見る番組としている。ついで、ドラマをあげる者が約53%いる。


⑤テレビ観・テレビの必要性

 テレビを、「見るだけでいろいろなことが分かる」、「手軽に楽しい気分になれる」、「友達との共通の話題ができる」と認識するものが小、中学生とも70%以上いる。しかし、「テレビで放送されることは普通本当のことだと思う」という考えを肯定するものは50%未満である。また、小学五年生では、テレビを「絶対なくてはならないもの」としているのは約18%、「かなり必要なもの」としているのは約36%、「あったほうがよい程度のもの」と認識する子供は約44%である。中学2年生において、必要性を高く認識している子供が多く、「絶対なくてはならないもの」とするのは約22%、「かなり必要なもの」とするのは約42%である。

 小、中学生の保護者も子供と同様のテレビ観を持っており、テレビを、「診るだけでいろいろなことがわかる」、「手軽に楽しい気分になれる」、「家族や友人・知人と共通の話題が出来る」という考えを肯定しているものは、いずれも70%前後であるが、「テレビはいつも正しい情報を提供してくれている」という考えを肯定している保護者は15%以下である。また、「忙しいときに子供に見せておくと便利」としている保護者は、小学五年生の保護者で約36%、中学2年生の保護者ではさらに少なく、約16%である。テレビの必要性については、小、中学生の保護者とも、約半数の保護者が「あったほうが良い程度のもの」と認識している。

 小学五年生の保護者では、「子供の知識を豊かにする」に対して「そう思う」保護者が約62%いる一方、「必要以上にいろいろなことを教えすぎる」に対して「そう思う」保護者も約53%いる。ただし、テレビを、「子供の生活の区切りをつけるのに役立つ」に対して「そう思う」保護者は22%にとどまる。また、「子供のストレス発散に役立っている」と認識する保護者が約52%いる一方、暴力に対する懸念を示す保護者もいる(「暴力を正当な手段として扱っている」は約39%。「子供を残酷さに対して鈍感にさせる」は約66%の保護者が「そう思う」としている)。中学2年生の保護者でも同様の傾向が見られる。


⑥テレビの直接的影響の自覚

 小、中学生とも、「コマーシャルで見たものを思わず買ってしまったことがある」のは40%前後、「テレビに出てきた流行の言葉をすぐに使ってみたこと」があるのは約35%、「テレビに登場する人のようになりたいと思ってこと」があるのは約27%である。このようなことがテレビの直接的な影響として子供に自覚されている。影響の受け方には性差が見られ、「テレビに出てきた流行の言葉をすぐ使ってみたこと」(小五男子:32%<女子:38%、中二男子:24%<女子:39%)や「テレビに登場する人のようになりたいと思ったこと」(小五男子:22%<女子:33%、中二男子:21%<女子:34%)は小、中学生ともに女子で多く、「テレビと同じ方法で人を笑わせようと思ったこと」(小五男子:29%>女子:19%、中二男子:25%>女子:17%)は小、中学生ともに男子で多い。「テレビで見た暴力の場面を真似してみたこと」は小学5年生男子で自覚しているものが多い(男子:6%>女子:3%)


⑦暴力シーンに対する意識・暴力観

 暴力シーンに対して、小学5年生は「嫌な気分になる」もの(約49%)をはじめ、「こわくて目をつぶる」(約26%)など拒否反応を示すものが多いが、中学2年生は「何も感じない」ものが多い(約35%)。また、性差が見られ、男子は「何も感じない」者が多く、女子は「嫌な気分になる」者が多い。

 「バラエティー番組などで、笑いをとるために、他の人の物を投げたり、叩いたり、からかったりする場面」に対して「笑いをとるためにはやっても構わない」とするのは、小学5年生で約30%、「アニメやドラマなどで、正義のために悪者を倒す場面」に対して「正義のためであれば、力で相手を倒すことは良い」とするのは50%以上いる。中学2年生では、笑いをとるための暴力シーンを容認するもの(約45%)、正義のための暴力シーンを容認するもの(70%以上)ともに多い。


⑧テレビゲーム

 小、中学生とも、90%以上の子供がテレビゲーム経験があり、平日1日あたりのゲームしよう時間は小学五年生で「1時間ぐらい以内」の子供が70%以上である。中学二年生では「ほとんどやらない」子供が約40%いる。性差が見られ、男子のほうが長時間使用するものが多い。また、テレビゲームをやった後は、「もっとやりたいと思う」のが約44%(中二は約34%)、「スカッとする」のが約22%(中には約20%)と覆いが、「疲れた感じがする」者も24%(中二2は25%)いる。そして、テレビゲームの楽しいところとして、「友達と共通の話題が持てること」が49%(中二は43%)と最も多い。「『やったぞ』という気持ちを味わえること」(小5:40%>中2:30%)、「何度もやり直せること」(小5:33%>中2:20%)を楽しさとして感じているのは小学5年生に多い。

 保護者の目から見ると、テレビゲームは、「子供のストレス発散に役立っている」(小、中学生の保護者とも50%以上)が、「子供の生活リズムを乱す」(小、中学生の保護者とも40%以上)と感じている。また、「暴力を正当な手段として扱っている」や「空想と現実の区別をつかなくさせる」と感じている保護者もそれぞれ小、中ともに30%前後いる。実際にテレビゲームソフトの種類やゲーム時間の取り決めをする保護者は、小学5年生で約50%いる。特に、男子の保護者で、テレビゲームの種類や時間を決めるものが多い。それに対し、中学2年生では、取り決めをしている保護者は約20%である。


⑨家庭環境認知

 小、中学生とも、90%前後の子供が「家族と一緒にいるのは楽しい」(とても楽しい+まあ楽しい)と感じており、「お母さんはいつでも自分のことを大切に思ってくれている」、「お父さんはいつでも自分のことを大切に思ってくれている」と思っている。


⑩学校環境認知

 小、中学生とも、90%前後の子供が「学校は楽しい」(とても楽しい+まあ楽しい)と感じており、80%前後が、「先生は自分の良いところを分かってくれる」と感じている。

 学校で「友達から叩かれたり蹴られたりすること」が多少ともある(よくある〜あまりない)のは、56%(中学生では46%、以下同様)、「友達を叩いたり蹴ったりすること」は41%(36%)、「休み時間、1人でいること」は51%(57%)、「友達から無視されること」は40%(28%)、「友達の言いなりになること」は40%(32%)、「友達をからかったり仲間はずれにすること」は38%いる。どのトラブルも「全然ない」のは、小学五年生で18%、中学2年生で18%である。これらは、小学5年生と中学2年生で大きな差はみられないが、「友達から叩かれたり蹴られたりすること」は、小学5年生に多い。


⑪友達の規定

 仲良しの友達の規定について、小、中学生とも80%以上が「一緒に遊ぶ友達」と認識しているが、「一緒に勉強する友達」は20%前後にとどまる。「親友といえる友達」として認識している子供は60%前後いるが、「悔しい気持ちを言える相手」として認識しているものは30%前後である。

 ただし、小、中学生とも性差が見られ、「一緒に遊ぶ友達」とするのは男子に多く、「一緒に勉強をする友達」、「相談事をしたり、他の人にはいえない秘密を教えあう友達」、「悔しい気持ちを言える友達」とするのは女子に多い。


⑫社会観・規範意識

 小、中学生とも、「まじめにがんばれば成功する」という考えに対して「そう思う」者が80%以上いるが、「人よりも良いことで目立つと嫌われる」や「お金があればたいていの問題は解決できる」という考えに対して、それぞれ70%以上のものが「そうは思わない」としている。規範意識について、「怒られることをこわがらずに悪いことができるのは勇気がある」と捉えることを否定するものは70%前後、「人に迷惑をかけなければ規則を破ってもかまわない」という考えを否定する者も70%以上いる。一方、40%弱の小、中学生が「大人になってからのことよりも、今、楽しければいい」と思っている。ただし、中学2年生では、「お金があればたいていの問題は解決できる」、「人に迷惑をかけなければ規則を破ってもかまわない」と考えるものが小学5年生よりも多く、「人よりも良いことで目立つと嫌われる」や「男の人は外で働いて、女の人は家のことをするのがいい」という考えを否定するものが多い。

 性差が見られ、女子で「大人になってからのことよりも、今、楽しければいい」という考え方を肯定するものが多く、男子で「男の人は外で働いて、女の人は家のことをするのがいい」という考え方を肯定するものが多い。

 保護者の社会観は、小、中学生の保護者とも、「まじめに努力すれば報われる」という考えを肯定するものが60%前後おり、「お金があればたいていのことは解決できる」、「社会全体のことよりも自分の生活を充実させることが大切だ」、「人よりも良いことで目立つと世渡りに苦労する」とするものが60〜70%いる。「少しくらいの悪さは度胸のある証拠でよい」と捉えることを否定する保護者は70%弱、「人に迷惑をかけなければ悪いことをしてもとやかく言う必要はない」という考えを否定するものは80%以上いる。


⑬家庭環境としての養育者

 小、中学生の保護者とも、「養育者としての自信がある」のは50%前後、「子供の悩み事や心配事を理解している」者は70%以上、「子供が放課後何をしているのか知っている」物は80%以上いる。一方、「子供には、できるだけ自分の考えどおりにさせたい」と考える保護者も50%弱おり、「子供が同じことをしても、時によって叱ったり放っておいたりしてしまう」という一貫性のなさを自覚している保護者も40〜50%いる。

 しつけと暴力のかかわりでは、小、中学生の保護者とも、60%以上が「子供をたたいて叱ることも時には必要だ」と認識している一方、「どんなときでも手をあげて叱るのは良くない」と認識している保護者も40%以上いる。


⑭保護者の心理

 小、中学生の保護者とも、80%以上が現在の生活に満足している。不安な気持ちの現われとして、「寂しくなること」、「顔やおなかが痛くなること」のある保護者は、それぞれ30%前後にとどまるが、「イライラすること」がある保護者は70%以上いる。

 主な悩みでは、「子供の将来のこと」を悩むものは、小、中学生の保護者とも30%以上いる。中学2年生の保護者では、「子供の受験のこと」を悩む者が37%と多い(小学五年生では約20%)。しつけに関する悩みでは、小、中学生の保護者とも、「言葉づかいが悪い」、「夜遅くまでおきている」、「勉強をしない」が20%前後である。対象児の性別による差もみられ、男子の保護者に多い悩みは「勉強をしない」、「テレビゲームばかりしている」であり、女子の保護者に多い悩みは「言葉づかいが悪い」である。

 進学期待として、小、中学生の保護者とも、50%以上が四年制大学までの進学を子供に期待している。


⑮子ども自身の自己概念・自分のイメージ

 小学5年生では、「友達は多いほうだ」と認識している子供は約63%、「スポーツができるほうだ」と思っている子供は約49%である。「我慢強いほうだ」と認識しているのは約21%、「新聞やニュースに興味があるほうだ」とする子供は約14%いる。「全体として人よりできることが多いほうだ」と思う子供は約10%と少ない。学校の勉強に対して、小学5年生は、約62%が「得意なほうだ(「どちらかといえば得意なほう」も含む)」と認識している。性差が見られ、女子で「苦手なほう」とする子供の割合が多い。

 今、熱中していること、頑張っていることは、小、中学生とも、「スポーツ」が最も多い。また、性差がみられ、「テレビゲーム」、「その他のゲーム」に熱中している子供は、男子に多く、「好きなタレントや歌手の物や情報を集めること」は女子に多い。また、小学5年生では、「習い事」をあげるものは少ない。

 将来の夢は、小学5年生男子は「スポーツ選手」が、女子は「歌手・タレント」が最も多い。中学生では、「回答なし」も多く、統計的に検討するのは難しいが、「スポーツ選手」や「歌手タレント」をあげるものは少ない。


⑯嫌なことへの対処方法・原因帰属

 嫌なことは、「我慢し、考えない」。つまり、嫌なことがあったとき、小、中学生とも「我慢するほう」なのは60%以上、また、「嫌なことは考えないようにするほう」なのは50%戦後いる。そして、嫌なことをされたとき、その原因を、50%弱の小、中学生が「私(ぼく)が何かいけないことをしたからそうするのかな」とする。ただし、性差が見られ、女子は、「私(ぼく)が何かいけないことをしたからそうするのかなと思う」、「私(ぼく)のことが嫌いだからそうするのかなと思う」と、自分に原因を感じているものが多い。


⑰心理的問題

 不安な気持ちの現われでは、小、中学生とも、「寂しくなること」がある子供は少ないが、「イライラすること」、「やる気がしないこと」「頭やおなかが痛くなること」は、50%前後の子供が経験している。性差が見られ、イライラ、寂しさ、無気力感は女子で多く、それは中学生で顕著である。

 悩みに関して、小学5年生の40%は「特に悩みはない」のに対し、中学二年生で悩みがないのは23%にとどまる。悩みの主流は、小学5年生、中学2年生とも「成績のこと」であり、特に中学2年生では45%いる。「友達のこと」や「性格のこと」は、女子で悩む子供が多い。男子は、小学五年生でも、「将来のこと」について悩む子供が多い。

 約30%の小学5年生が「子供だけでゲームセンターなどに行く」、「知らない人の自転車を勝手に使う」、「タバコをすう」などの社会的ルール違反のいずれかを「やったことがある」、あるいは「やってみたいと思う」、「やっても良い場合もある」ものと捉えている。中学二年生では、その割合は約60%になる。顕著な性差は見られない。


⑱社会的ルール違反

 因果の方向は明らかではないが、社会的ルール違反について、経験、興味、容認の意識を持っている子供の多くに見られる特質として、以下の点があげられる。家庭や学校を楽しくないと感じていたり、先生からの承認感が低い。悩みを多く持ち、イライラ、無気力など不安な気持ちの現われが高い。学校でたたかれたり無視をされるなど友達関係のトラブルを多く経験し、逆にたたいたり蹴ったりすることも多く経験する。

 また、テレビを必要とする程度が高く、視聴時間も長い。視聴形態としては、時間や番組を決めて見る形態をとらない者が多い。テレビの暴力シーンに対して、「嫌な気分になる」などの拒否症状を示すのではなく、「ハラハラドキドキして夢中になる」、「カッコ良いと思う」者が多い。また、正義や笑いのための暴力を容認するものが多い。さらに、「コマーシャルでみたものを思わず買ってしまったこと」、「テレビに出てきたはやりの言葉をすぐに使ってみたこと」などのテレビからの直接的影響を自覚するものが多い。視聴番組は、小学5年生でドラマ、歌・音楽番組、トーク番組といった、アニメ以外の番組を視聴するものが多い。

 不安な気持ちの現われの中でも、無気力感の高い子供で、学校が楽しくないと感じていたり、勉強を得意でないと思っている子供、テレビ視聴時間が長い子供が多い。

 今回の調査では、因果の方向性を見出すことはできない。また、社会的ルール違反を容認する子供や不安な気持ちの現われの高い子供が多く示している回答を、彼らの特性と位置づけてはいるが、それらの要因間の関連の仕方、つまり、どの要因が直接要因、あるいは間接要因、周辺要因となるのかについての検討は、今後の縦断研究の課題とされる。


⑲テレビ視聴時間との関連

 同様に因果の方向は明確ではないが、小学5年生の長時間視聴児(一日あたりの視聴時間が4時間以上)に多く見られる特質として、以下の点があげられる。テレビの見方は、「見る時間を決めている」、「その日見ることにしていた番組が終わったらテレビは見ない」という、時間や番組を決めた視聴行動をとらない子供が多い。また、11時過ぎまで起きている日数が多い子供が多い。テレビの必要性を高く認識する者も多い。しかし、テレビ観やテレビの直接的影響、暴力シーンへの意識と視聴時間の長短における直接的な関連はみられなかった。

 長時間視聴児では、家族や学校を楽しくないと感じるものが多く、不安な気持ちの現われが高い者が多い。「お金があればたいていの問題は解決できる」、「大人になってからのことよりも、今、楽しければいい」という考えを肯定する者が多く、社会的ルール違反の容認者も多い。

 長時間視聴児の保護者は、不安な気持ちの現われが高い者が多く、悩みを多く持ち、生活満足感が低い者が多い。また、対象時に対する悩みでは、「テレビばかり見ている」や「夜遅くまで起きている」といった、子供の実態を直接反映した悩みを持つ者が多い。

 一方、短時間視聴児で、「その日見ることにしていた番組が終わったらテレビは見ない」などのように決まりにそったテレビ視聴の仕方をしている者、学校を楽しいと感じている者、「担任の先生は自分の良いところを分かってくれている」と考えている者、「勉強は得意なほうだ」と思っているものが多い。しかし、短時間視聴児は「受験のこと」を悩んでいる者が多く、全体的に「特に悩みはない」とするのは平均時間視聴児である。

 短時間視聴児の保護者は、「子供の知識を豊かにする」、「子供の情緒を養う」などのテレビのポジティブな側面を認識するものが少なく、子供のテレビ視聴に対して「子供に見せたくない番組はチャンネルを変えたりして見せない」などの働きかけをする者が多い。また、「子供の受験のこと」を悩む者が多い。

 これらの結果から、以下の点が一つの推測として考えられる。

 まず、小学5年生で長時間テレビを視聴する子供は、テレビでの暴力シーンなどの影響を受けてというよりはむしろ、長時間視聴に伴う生活の乱れ、環境のネガティブな認知などが、不安な気持ちの現われや悩みを生み出し、それらとの関連から社会的ルール違反傾向との関わりが生じる可能性があるのではないだろうか。

 一方、必ずしも「短時間視聴児」が「元気」なわけではないことも考えられた。確かに、短時間視聴児では、勉強が得意だったり家庭を楽しいと感じている子供が多い。しかし、短時間視聴児、また、その保護者とも、「受験のこと」を悩んでいる者が多い。さらに、母親への基本的信頼間も、高い者と低い者の両極が多い。保護者が子供のテレビ視聴に盛んに介入すること、テレビ観としてのテレビのポジティブな側面を認識するものが少ないことから、短時間視聴の背後に、受験、保護者のテレビ観、子供のテレビ視聴への働きかけの多さが関連している可能性も示唆される。


⑳諸要因の分類

 社会的ルール違反傾向・不安な気持ちの現われと関連する要因をテレビだけに求めることは適当ではないだろう。そこには、家庭や学校への意識、抱えている悩み、友達との関係、養育者の意識、子ども自身が頑張っていることなどを巡る様々な要因が関わっていることが示された。さらに、大半の子供は、多少とも気になる要因を抱えていることも示されており、これら複数の要因のコンビネーションの中に、テレビ視聴時間や視聴行動、テレビに対する意識に関わる要因を位置づけ、検討する必要があるだろう。