JACK TALKS TO HIMSELF MEMENTO
キツイ批判やお行儀の悪い言葉遣いをしている箇所もあるかと思いますが、
どうか広い心でお見逃し下さいませ。
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◆◇◆ メメント ◆◇◆
2000年・米・113分
監督/クリストファー・ノーラン
出演/ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス

前向性健忘の疑似体験とも言える斬新な語り口が白眉。

◆◇◆

最愛の妻を強盗に殺され、人生を狂わされた男・レナード。犯人への復讐に全霊を注ぐ毎日だが、彼には記憶が10分しか持続しないという後遺症が残っていた。刻々と消えてゆく記憶をポラロイド写真と刺青に刻みつけ、レナードは犯人を追い続けるが・・・?
物語を結論から巻き戻していくという、逆回転の語り口が話題を呼んだこの作品。主人公レナードが10分間の記憶しか持たない健忘野郎であるという設定をまんま活かして、10分毎に本のページを逆めくりするような構成になっている。成る程、考えたな、ノーラン監督よ。これならば、最後にドドーンと衝撃のオチを持ってくるのには最高のテクだろうさ。実際オチはなかなかのもんでした。
しかし私がもっともっと驚嘆したのは、そんなオチテクではなく、別ポイント。なんとこの逆行型の語り口によって、あたかも自分が主人公と同じ前向性健忘、つまり記憶容量10ミニッツな人間になってしまったかのような感覚を味わえてしまうのだ!10分以上前の出来事が明かされない状態で物語が進むのであるからして、観る側は否応なく常にフラストレーション蓄積状態。例えるなら、いきなり「3日前の朝飯に貴様は何を食らったか言うてみよ」と言われ、「えぇっと・・・」と口半開きで記憶を辿る時のような感覚が体感できる。こりゃ愉快じゃないの。
昔、黒澤明だったか誰だか忘れたが、どっかのお偉い監督がこんなことを言ったと聞いたことがあります。例えば、雨が降っているシーンがあるとして、良い映画というもんは、その雨の匂いが画面から感じられるような映画だ、と。つまり、雨の音や水滴は表現できて当たり前だが、匂いはもっと感覚的なモノ。そういう表現ができてこそ良い映画なんじゃ、というワケなのでしょう。その雨の匂い、感覚というもんを、「メメント」は達成しているかもしれない・・・。主人公の感情や感覚を、台詞や音楽や映像で語ることは出来ても、観客が直でそれを体感する映画ってなかなか無い気がします。ところが「メメント」の場合は、10分前の記憶が無いもどかしさや不安感が、そのまま語り口に現れているじゃあないですか。言うなれば健忘症疑似体験ソフト。ブラボー!
この妙な感覚体験は、好き嫌いにかかわらず一度味わって損はないかもしれません。但し上映中はかなりの集中力で観るべし。途中でトイレに立つような膀胱オチョコ並の方には無理ですな。

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