CRITICISM 真面目な映画批評
管理人が観た映画・ビデオを真面目に批評する場です。
少々固い文章ですが御一読下さい。
FILE1 回路

何より驚くのは主人公二人の人物像だ。キャラが無いのがキャラクター、とでも言えば良いのだろうか。色味が薄く平々凡々としていて掴みどころが無い。等身大を通り越して映画を観ている自分と殆ど同化してしまえそうな程に、極々普通で極々平均的な若者像。

しかし、この奇妙に薄味の主人公達がインターネットという極めて今的な要素と不思議にリンクして、今の時代の質感や匂いのようなものを上手く醸成している。絶えずフラフラと揺れ動いているような、捉えどころの無い、どっちつかずな雰囲気。

今もの凄い勢いで世界に普及しつつあるインターネット。二十四時間場所を問わず情報を入手できる新世紀の通信網は、実に中途半端で不可思議な世界だ。私達は必要な情報を自らの意志で能動的に選択し得るが、そのアクセス方法はクリック一つ。極めて簡単で非常に受け身的だ。テレビほど受動的ではないが、かと言って本や映画ほどモチベーションを必要としない、何とも中途半端なメディア。

主人公の二人にも同じようにどっちつかずの中途半端さが窺える。目標も無く平凡な日々を送る大学生・亮介と、これまた極普通のOL・ミチ。特に不幸でもなく特に幸せでもなく、将来に悩んでいるわけでもない、とにかく普通の若者。案の定二人は次々と襲い来る死の恐怖に振り回されるばかりで、何故インターネットが死の回路と化したのか、事の核心を暴いて事態を乗り越えようともせず、ただオタオタオタ。ところが、次々に人が消えて行く目の前の異常事態に何とか対処し図太く生きていくのは、この普通過ぎる位普通な二人なのだ。受動的ではあるが消極的ではない。実に中途半端で不思議な逞しさ。

この妙な宙ぶらりんの感覚がとても現代的で、曖昧模糊として掴みどころの無い今をとても良く表している。だから映画が後半ガラガラとファンタジックな急展開を見せても、そこで描かれる恐怖はどこかリアル感を伴って私達観る者の心に訴えるし、同時に強く生き抜く主人公の姿は現代へのエールとなって胸を打つものがある。量産される和製ホラーの中、とても興味深い視点を与えてくれる秀作だ。

2001年・日・118分

STAFF

監督:黒沢清

CAST

加藤晴彦
麻生久美子
役所広司
小雪
有坂来瞳
松尾政寿
武田真治

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