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作品製作心得
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自分で小説を書きたいと思っている同志諸君に、いくつかの助言をしたく思い、私は ここに筆をとったのである。
脳が腐る程本を読め。
これは小説に限らない、雑誌でもよい、マンガでもよい、より正確にはそれどころか 本でなくともよい。映画でもテレビでも落語でもいっこうにかまわない。読書のよう な間接体験に限らず、例えば自衛隊の一日体験のような実際の体験でもよいだろう。 「いや、僕が書きたいのは人まねでなくオリジナルの作品なのだ。」と主張する人も いるかも知れない、だが実際には独自の作品を作るためにこそ、豊富な読書は必要な のである。*
そして、完全なオリジナルとはもはや不可能である事を認識していなくてはならない 。全ての物語の基本構造は(おそらく)出尽くしているためである。どんな『オリジ ナルの』物語も、過去の人達によってすでに語られているのである。**
多くの本を読むことには、過去の作品との偶然の一致をさける他にもう一つ重要な意 味がある。人が物語を書く時、出来上がる文章は作者の知識や体験、人生観に哲学等 -これは作者自身の人生から沸き出すものに相違ない-に束縛されることはわかると思 う。***ならば自分の使える知識や経験等は多いほうがよいことは明らかだ。
以上が作品製作を志す人に、多くの読書をすることをすすめる理由である。

体験を記憶せよ、そして忘れよ。
脳が腐る程本を読んだら、次にするべきことはそれを記憶することである。読んでも 完全に忘れ切ってしまっては小説を書く役に立たない。次に忘却である。何故か。読 んだ本と全く同じ文章を書いても自分の作品にはならないし、些細な共通点を気にし て小説を書き進めなくなってしまっては本末転倒だからである。したがって、忘却に より記憶した物語や体験の枝葉を落とし、読み手自身の個性に従って意図的にあるい は無意識に内容を取捨選択し、これを作品製作のきっかけとするのである。****

この度述べた内容は三語に収束する、
読め
覚えろ
忘れろ

今回は、かなり基本的なところを考察してみた。次回は具体的な技術を紹介したい。
次回予告『肩凝りvs太極拳、強敵!腰痛あらわる』

*例えば推理小説の新しいトリックを考えている作家がいるとする。この作家は自分の 思い付いたトリックがもうすでに別の人に使われていないか様々な本を調べるだろう 。極端な例だったが、過去の作品と違うものを作るには過去の作品を知らなければな らないのである。
**例えば、手塚治虫大先生は生涯に十五万枚ものマンガ原稿を作ったといわれる、こ れだけの原稿を作り上げれば、もはやフィクションでできる限りの基本的な物語は出 尽くしてしまうだろう。戦後のマンガは全て手塚治虫の影響から逃れられないといわ れているのも当然である。あのお方の遺したどの作品とも全く重ならないストーリー が作れるかどうかじっくり考えていただきたい。そしてこのお方の描いた未来世界も 、過去の作品からの完全な逸脱はしていないのだ。
***作者自身の思想や感情などを(ほとんど)込めることができずに駄作が完成する例 は、様々な映画のノベライズを読めばすぐに見つけられる。映画の内容を逸脱できな い登場人物の言葉や心理描写と、作者自身の文章が噛み合わずにいるものは実に見苦 しい。アクションシーンを効果音だけでお茶を濁すものもある。これはひどい。面白 いノベライズは、映画で語れなかった設定の面白さに頼っているのもむべなるかな。
****例えば、ある人にとって鉄人二十八号はロボット格闘アニメであり、別の人には スパイものであり、また別の人には少年探偵とメカのアニメであるように、読者によ り異なった抽象化が行われるのである。



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