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映画発掘、番外編・『バトルロワイアルと、その報道』
柳下 徒是有(どぜう)

最近噂になっている、深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』。中学生が殺しあう描 写が若者に悪影響を与えるとして、15歳未満の鑑賞が禁止されているようだ。
確かに残酷でない映画とは言えまい。
だが、今の報道をみていると、『中学生が殺しあう映画があるけどどう思いますか』 『殺人ゲームに参加する子供達の映画をどう思いますか』という述べ方ばかりで、重 要な所がどこか欠けているような気がする。
今回は、論外編と題し、時代背景と映画の関係を考えてみたい。

映画、及び原作小説の設定では、近未来の日本(と断言してよいと思う)で、学級崩 壊の撲滅と強い教師の復権の為に、自衛隊を動員して、BR(バトル・ロワイアル)法 が施行されている。

ここで、作品中の3年B組の教師が述べているように、『国の為に役に立つ立派な大人 になる』という理屈の為、殺人ゲームに参加させられているのである。まずそのこと を覚えておくべきである。(とはいえ、一部例外があり、自分から参加した生徒もい る。)

荒唐無稽と批判するのは簡単だろうが、そんなことは作者自身も十分理解している。 重要なことは、フィクションの世界は現実をそのまま映す鏡ではなく、むしろ世界の 一面を誇張して映す魔法の鏡なのだということだ。
そして、この映画の世界観は、現実世界をグロテスクに誇張した姿だと断言しよう。

かの盗聴法(通信傍受法と言い換えることになっている)や、少年法改正(改悪とも 言われる)、学徒強制労働法(別名ボランティア法)等が異様な早さで可決した世相 。
どこからともなくBR法の足音が聞こえてきた。
多分この状況をカリカチュアした先に、『バトル・ロワイアル』の世界が待っている のだろう。

また、現内閣の面々の「教育勅語にも忠君愛国、長幼の序等の正しい所が有った」「 いじめは競争と言い換えてもよく、競争に勝てば生き残れるのと同じだ」、他数々の 言動。都知事は災害訓練に、索敵センサーと煙幕装置を装備した迷彩色の一団を引き 連れて現れた。
どうも、現実世界でも強い大人の復権をめざしている人が多いようだ。
演技ではなくて、マヂで。
実に興味深い。これも時代の流れか。

同じく残虐映画とされる、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』の製作された時代背景は、 ケネディ大統領の暗殺映像やベトナム戦争の恐怖が国中を駆け巡った時代であり。誰 もが同じような仕事をし、同じような食事をし、同じようなものを買いに同じような 所に出かける生活が肯定される消費社会が広まった時であった。まさしく、生きてい る人間のゾンビ化の時代である。
だからゾンビも人間も、ショッピングモールに集まった、というのは有名な話だ。
『ゾンビ』は、ちょうどその時期に誕生するべくして現れた。

同様に、一緒にしては失礼かもしれないが、『ゾンビ』と同じく『バトル・ロワイア ル』も(森政権も、)今この時代の中でなくては誕生しなかったはずである。
時代を切り取った、とは『仁義なき戦い』以来深作欣二監督について語られる言葉だ が、まさしくこの映画に相応しい。
ベストの中のベストの中のベストの時期に公開されたと言えよう。
実に興味深い。

追伸、二つ程。
東京の災害訓練で自衛隊が戦車で出動して、いろいろ反発を食らっていたが、いっそ ジエータイの皆様に扇長官ばりに『若草色防災服』を着せていればいささかのイメー ジ向上になったかもしれない。冗談だが。
それはそうと、マスコミ関係者に『扇長官の防災服についてどう思われますか』と聞 かれた宮沢元総理、『まぁ、何着ても似合う人ですから』と伏し目がちにあらぬ方を 見て呟いた姿はお見事であった。政治家やめても役者で食っていけると思う。

最近、テレビの悪影響等が議論されるが、誤った証拠に基づく議論がおこなわれるこ とも多いようだ。
その一例をあげる。
小学生に、鶏の絵を描かせる。
何人か、足を四本描いてしまう子がいる。その絵をかかげて言う。
『これはテレビの影響です。テレビでは鶏の足の部分はめったに放送されないでしょ う。だから四本に描いてしまうのです。現実に触れていない子供だからこうなるので す。』
嘘だ。
実際試すと確認できることだが、56歳だろうが84歳だろうが間違える人は間違え るのである。
注意力や記憶力、常識等の面においてまだ未発達の子供達の方が誤った絵を描く確率 が高いことは当然である。
鶏の足自体は放映されなくても、テレビで他の鳥の足を放映されている所を見た子供 が、少し柔軟な頭を持っていれば、十分類推可能なことだ。
個人の能力を問うている問題にすぎない。
それ以前に、過去数十年の鶏の絵のデータがないのに、どうして『最近の子供は間違 った絵を描く』などと断言できるのか。
蟹を描いた時、足の本数を間違える大人はたくさんいる。牛を描かせた時、足の関節 の向きが異なる絵を描く大人もたくさんいる。
これはテレビの影響だろうか。
誤った証拠をもとに、最近の子供の心が廃れたと主張する、大人の心の方が荒んでる 。

長い追伸となりましたが、これにて映画発掘、欄外編の幕をおろさせていただきます 。



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