トップページ  Bi-Online

映画発掘、第九回 『ミッドウェー・オブ・カートゥーン2、アメリカアニメの新た なる希望』『アイアン・ジャイントと浪花節』
柳下 徒是有(どぜう)

前回の『トイ・ストーリー』は、技術、脚本、登場人物の魅力が揃っていた名作にし てヒット作である。
子供も大人も、それぞれの視点で楽しめた。
非常に間口の広い作品であった。

『アイアン・ジャイアント』は技術、脚本、登場人物の魅力が揃っている名作だが興 行的には振るわなかった映画である。
子供向け映画の殻をかぶった、夢を失いかけた大人に語りかける映画である。
そして、おっそろしく間口が狭い。
なぜかというと、”怪獣やロボットに目をキラキラさせていたことのある少年”とい う過去を持ち、しかも夢を失いかけている、いい年したお兄さん以上おっさん未満の ための傑作である。
さらに、1950〜60年代映画ファンには堪らないつくりである。

脚本の煮詰め方は『トイ・ストーリー』と比較すると、やや甘い気もする。
最初の十数分で最後のオチまでわかるほど筋も単純だが、それこそ魅力なのだ。
だが、日本人に最も分かりやすい例えでは、『水戸黄門』的アニメとでも呼ぼうか。
だが、この『水戸黄門』は『鉄人28号』+『ジャイアントロボ』+『六神合体ゴッドマ ーズ(これはまだ不明)』な巨大ロボで、しかも小学生と友達になる。

その単純なストーリーは以下のごとく、
1950年代後半、冷戦の最中、スプートニクが史上初の人工衛星となったころの話。
アメリカ沿岸のある町に宇宙から巨大なロボット、鉄人『アイアン・ジャイアント』 が降ってきた。

最初に気が付いた少年ホガースはそのロボットと友達になり、教育を施す。
町がパニックにならないように変わり者の自称芸術家と協力して匿うが、悪意のある 軍人に発見され、攻撃を受ける。
ホガースと鉄人は逃げ回るが、ついに・・・。

はっきり言って、途中の友情を育んでいくシーンとか、すんげぇかったりーです。
が、このアニメらしからぬより一般の映画に近いかったるさに(良い意味で)驚かさ れる。
だが、この荒唐無稽であるにもかかわらず並の感動作より感動できるのは、この”た るさ”によって子供の頃の長い長い遊び時間の想い出が蘇らされてこそのはずだ。

さらに、感動巨編でありながら、随所にオタク心にぐっと響いてくる描写がある。
ホガース少年は、
50年代の宇宙人侵略映画を見ている途中、電波障害に遭遇する。
で、”宇宙人の攻撃に違いない!”と、自転車で町をパトロールする、過剰な想像力 。
しかも鉄人に教育を施す時の教科書が、『スーパーマン』『アトモ』『マッド』。
オタクマインドをがっちょりキャッチ!
ちなみに、『ザ・シンプソンズ』の主人公の夢は『マッド』の編集者になること。
閑話休題。
ホガース君は、『スーパーマン』を絶賛し、後の鉄人の行動指針に大きく影響を与え る。

50年代を象徴する小道具として前述の『人工衛星スプートニク』『宇宙人侵略映画( この時代の侵略映画はソ連の恐怖と重ねて描かれている)』の他にも、『国民啓蒙映 画』が挙げられる。
『国民啓蒙映画』とはいかなるものか。
キューバ危機前後に全盛となった映画で、B級映画のファンであるジョー・ダンテ監督 の『マチネー・土曜の午後はキスで始まる』の中でも描かれていたが、要するに、 ”小学生のみなさん、ソ連の核ミサイルが飛んできたら、机の下に隠れましょう!” という、あんまりにあんまりな内容の映画(多数現存する。あまりのひどさに、一部 熱狂的な支持者がいる。らしい)である。

また、この映画の主題「君はなりたいものになれる。なりたいものになれ!」を提示 する、お兄さん以上おっさん未満の自称芸術家も、ヒッピーもどきにして独身と、実 にダメ人間の共感を得ることだろう。
しかも彼等”おたく青年の映し身”が軍を出し抜いて鉄人を匿う時の格好良さ。

とどめに鉄人こと『アイアン・ジャイアント』のデザインが秀逸。
私には、レトロにして新しく、温かみのある鉄のロボット、という使い古された形容 しかできないが、この通りの特徴を具えている。
ちょっと見にはまるでCGとは思えない柔らかい絵柄で、演技力も抜群。
ラストの飛行シーンの荘厳な表情、驚いた時の仕種等じつに素晴らしい。
『トイ・ストーリー』といい『アイアン・ジャイアント』といいアメリカ文化では CGに演技をさせるということがどういうことか良く理解されてるね!
日本で今最も演技ができていて技術的にも最高水準なのは『ホーホケキョ、となりの 〜』だけど、”ディズニーのスタッフが驚愕のあまり声を失った”等と賞賛しても、 皮肉にしか聞こえない所がすごいね。
念のために言っときますけど、『となりの〜くん』はすごい技術の結晶である。
念のために言っときますけど、良い意味で。
水彩画調で、しかも振り向いてもぶれず、線がところどころ掠れる、というのはコン ピュータにとって至難の技だ。
が、某友人達の言葉「ただ手抜きをしているだけだと思ってました」「あれだけ雑な 絵なんだから、ヒットしないのも天罰だと思っていました」「俺CGやってるからすご いのはわかるんだけど、何でわざわざああいうことすんの?」

やっぱり、アニメに演技をさせるって難しいですね〜。
この分野ではアメリカに一日の長があるね。
とはいえ日本映画からの引用らしきとこも多く。
発電所でのシーンは初代『ゴジラ』を思い出させるもので、戦車を蹴散らすシーンは 『キングギドラ』っぽい、ラストシーンは『天空の城ラピユタ』のロボットであり、 そう考えれば鉄人のデザインもスタジオジブリに近いような気もする。
また、戦車、戦闘機、戦艦、潜水艦と対峙した鉄人の姿(これぞメカ好き少年の夢だ !)は、今までハリウッドでは見られなかった怪獣映画の始まりを予感させると言っ たら大袈裟だろうか。

しかも、ラストが浪花節。
『トイ・ストーリー』が西部劇などのエッセンスを取り出し非常にアメリカ的な側面 を持っていたのに対し、『アイアン・ジャイアント』は怪獣映画やロボットアニメな どの精髄を取り出した義理人情浪花節デジタルアニメである。
間口は狭いけど、もっと多くの人が見てもいい映画である。

あ、言い忘れてたけど、鉄人の飛行シーンは格好良い。
個人的には『天空の城ラピユタ』『トイ・ストーリー』『アイアン・ジャイアント』 をアニメ三大ベスト飛行シーンにしたいくらいだ。

ちなみに特撮四大馬鹿飛行シーンは『ワイルド・ワイルド・ウェスト』『ロケッティ ア』『ロボコップ3』『ラストアクション・ヒーロー』であろう。



Bi-Onlineに戻る