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映画発掘、第五回・全米最低映画賞受賞作、ワイルド・ワイルド・ウェスト
柳下 徒是有(どぜう)

私の好きな映画、くだらない映画。
私の嫌いな映画、つまらない映画。
結果として、私の応援する映画は、大コケ映画、クズ映画呼ばわりされることが多い

『ラスト・アクション・ヒーロー』しかり、『カット・スロート・アイランド』しか り。

前者は、アーノルド・シュワルツネッガー主演で、あちこちに有名俳優が一瞬だけ出 ていたり、何処かで見たシーンをなぞっていたりする、パロディー満載の映画である 。噂によると百億円以上の予算を費やして製作、ビルなみの大きさのシュワちゃん人 形広告や、NASAのロケットに広告を載せるなど、宣伝も並々ならぬ予算の掛けよ うであった。
が、コケた。
同じくシュワちゃん主演で、たっぷり金を注ぎ込んだオマージュ満載、テレビでも何 回も放映されている『トゥルー・ライズ』とは明暗を分けている。
それなりによくできた作品なのだが。

後者は、『ダイ・ハード2』『ロングキス・グッドナイト』の監督の作品で、娯楽大 作。映画を見るに、この監督、爆発が好きらしい。
が、全米最低映画賞を取りやがった。面白いと思うのだけど。
冗談ではなく全米最低映画賞というものは実在する。ラズベリー賞という名で、アカ デミー賞と同じ日に渡される不名誉の証しである。
『カット・スロート・アイランド』、過剰な個性の人物造形と大暴れ活劇がすごく頑 張ってたのだけれど。何故か最低映画賞。やはり、時代劇みたいに展開が読める以前 の内容であるシナリオが原因なのだろうか。原因だな。

どちらも、感動作ではないし、高尚さなんてかけらもないことは共通している。

かの有名な『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』の爆烈天才監督ポール ・バーホーベン氏も、ラズベリーを受賞していたから、まぁクズと言われても気にす る必然性はないでしょう。

ラズベリー賞には映画に対する愛が詰まっている!ということで。

で、『ワイルド・ワイルド・ウェスト』。
監督は、『アダムス・ファミリー』で知られるバリー・ソネンフェルド氏。彼はこの 作品で、バーホーベン以来の快挙と言われる、最低賞軒並み独占という業績をうちた てた。
原因は分かる、だがそれは後で。

まずは映画の説明から。
娯楽作の基礎はしっかり押さえている、すなわち『メカと悪役とヒロイン』が光り輝 いているのである。

1、メカ
舞台が西部劇なのに(なので?)、水陸両用武装可変機関車や移動要塞、ニトロエン ジン搭載自転車など、奇抜なメカが次々登場する。
しばしば西部劇版007と表現されるが、『西部劇版仮面の忍者赤影』と呼ぶ方が適切だ ろう。
ただ奇抜なだけでなく、秀逸なメカデザイン。19世紀で最も格好いいメカを描いたア ルベール・ロビダの漫画から抜け出したような、と説明しても誰もわからないですね 。ようするに、もし19世紀に21世紀の科学知識を持った人間がいたらこんなものを作 っただろうというような、文句のつけようがない説得力ありげなデザインなのである 。

2、悪役
最大の悪役、狂気の天才科学者アーリス・ラブレスを演じるのは、『恋の骨折り損』 『恋の空騒ぎ』の監督・主演、『フランケンシュタイン』ではフランケンシュタ イン博士を演じた、ケネス・ブラナー氏。
彼は、異常にハイテンションで躍動感溢れる演技の人である。
シェイクスピア劇の『恋の空騒ぎ』でも、『フランケンシュタイン』でも、駆け回り 踊り回る異様な姿を見せた。これほど活発に動き回るフランケンシュタイン博士はそ れまで世界に無かったものだろう。

で、今回の映画で車椅子に乗って演技するのだが、やっぱり異様な活力がみなぎって いる。というか、狂った人物を怪演している。ラブレス博士は南北戦争で重傷を負っ た、車椅子の天才科学者。この車椅子、スチームエンジン搭載車椅子で肘掛けにライ フルを内蔵、戦闘時には格闘モードに変型するテレビ通販も驚きの逸品。
一言で言って、とち狂ったホーキング。
これ程狂った、そして輝いた悪役は、『天空の城ラピユタ』のムスカ大佐以来ひさし ぶりである。

他に悪役は、四人の美女軍団ラブレス・ガールズ、なんだがコスプレみたいな衣装で す。と、南軍の残党を指揮するマグラス将軍、彼の耳にも注目、なかなか良い造形で す。あと、慇懃無礼なインディアンのハドソン。

でも、四幹部の一人は準主役なのに最期まで名前も出ず、ハドソン氏も名前は出てき ません。それ以前に、あまりストーリーに関係ない人が多いのだけど。

3、ヒロイン
悪役側のヒロインはコスプレ四幹部。
で、主人公側のヒロインはどうかと言うと、かなりしたたか。なかなか悪どくて良い 。悪役とメカの次くらいに輝いている。

かように、メカ、人物及び衣装デザインは非常に興味深いものであった。
美術スタッフ頑張ってるなぁ。芸術的なものより、カッコイイものを作ろうとした気 概が感じられる。
繰り返すが、登場人物は物語と全く関係のない場合が多かったけど。

では何故、最低映画賞を取ったのか。
60年代に放映されたテレビシリーズのリメイクだが、設定を大きく変えてしまったこ とがまず一つ。主人公の一人ゴードンのへっぽこ拳法も原因の一つかもしれない。だ が、最大の原因は台詞であろう。

少なくとも、最低台詞賞は確実な出来だった。
車椅子の悪役をネタにした台詞と、旧シリーズからの設定変更の結果黒人ということ になった主人公に関する台詞が、かなり危険である。
一つ一つの台詞ならば、『サウスパーク』のほうが格段に過激だろう。
だが、ストーリーの隅々まで黒人ネタと障害者ネタのジョーク(とあまり言いたくな いくらいしつこい)で構成されている。
時代背景からいくと、そういう会話もあるだろうが、やっぱり洒落にならない。

DVDに入っている監督の解説音声で「ここからが、差別用語の連発シーンです。」と言 っているが、全編ヤバいってば。
中盤で、仮装パーティーに侵入する時、ゴードンがウェストに対し(彼としては気を 利かせたつもりで)『じゃあ君は、僕の召使いに変装しなよ。』と言ってウェストを 不愉快な気分にさせているのが、何かこの映画自身の姿と重なります。

車椅子のラブレス博士に対する罵りも、相当のものがあります。これらの台詞が嫌に なる観客も居たことでしょう。
でも、ラブレス博士自身の魅力は、凡百の偽善物語を超えて光り輝いています。

こんな奴いるかよ!という善意の固まりの介護者と、こんな奴いるかよ!という善意 の固まりの被介護者と、こんな理屈で納得するかよ!という励ましの言葉で前向きに 生きることを決意するドラマなんて、移動要塞タランチュラに踏みつぶされちまえ! と思います。

たしかに博士も、こんな奴いるかよ!な人ですが、逆恨みの薪を憎悪の炎にくべ、怒 りをぐつぐつと沸騰させて突き進んでいく姿は、蒸気駆動車椅子に乗り湯気を吹き上 げながら合衆国分割の宣言をする姿とあいまって、実に見事な独裁者っぷり。神々し い程である。
少なくとも、偽善的善意の固まりの人よか、よっぽど潔く格好良く生きています。近 所にいたらすごく迷惑だけど。

悪い台詞の話ばかりなので、この映画の中から、最高の台詞を取り出すと、 移動要塞に侵入したことがばれた主人公が、「ラブレス博士にお母上のアイリーン様 から電報が届いております。『馬鹿はやめて早く帰っといで』だそうです。」に尽き る。
これだけでは、どこが面白いのかわからないのですが、『アイリーン』というのは監 督の母親の名前です。

『アダムス・ファミリー』でも、『アイリーン台風の上陸』という本を抱えた登場人 物に「あんたは最低の母親だ!」と叫ばせている。
きっと、監督の実体験だね。
若き日のソネンフェルド氏『俺ぁハリウッドさ行って、映画監督になるだ』
母、アイリーン『馬鹿はやめて早く帰っといで』
ソネンフェルド氏『あんたは最低の母親だ!』
実にアットホームで心あたたまる光景ですね。私の妄想ですが。

でもやっぱり、偽善でもいいから台詞にもっと気を使って欲しかった。
偽善、とは『人の為の善』と書きます。(イタコ、某長髪教師)
見る人が嫌な気分にならない為の善い台詞を、ね。
人物設定がまだまだ描き尽くされていなかったけれどシナリオはいいや、メカと悪役 がナイスだから。

最後に、何度も言うけど、『メカと悪役がカッコイイ映画』。
そんな映画です。

追伸、ラブレス博士がボストン茶会事件について言及した時の「〜 the most expensive tea〜」という言葉が、『やけに高い茶を飲まされてたっけなぁ』になって いるが、これは誤訳。
ボストン茶会事件は、茶条例の改正によって起こったが、その法律の内容は独占販売 をおこなっていた東インド会社に対する茶税が免除されるというものだった。つまり 、茶が安くなる法律だった。そのため、個人事業主(法律上は密輸業)が反発し東イ ンド会社の茶が海に廃棄されたのである。

したがって、小説版の『史上最も高くついた茶だ』の方が適切な訳である。



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