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映画発掘・第十回『ミッドウェー・オブ・カートゥーン3』『ドス黒アニメの復讐』
柳下 徒是有(どぜう)

現在日本の最高の技術とスタッフを結集した
『ホ〜ホケキョ・となりの山田くん』。
初めてディズニーが他社のアニメ製作に協力、フルデジタル、監督は『じゃりん子チ エ』の高畑勲氏。さぁ、どうなる!
制作費約十億対して興業収入五億円以下!の大作であった。
フルデジタル(つまり全部CG)で水彩画調の画面を作り、しかも水彩画の濃淡の位置 が人物や背景の向きに沿ってなめらかに移動する。さらに、落書きのような雑な線を 再現する。これは非常に高度な技術である。
が、あまりに当たり前に高度な技術を披露した為か、
「ただ手を抜いているだけだと思ってました」
「あれだけ雑な絵なんだから、ヒットしないのも天罰だと思ってました」
「なんかすごく気持ち悪い絵だった」
「俺CGやってるからすごいのはわかるんだけど何でわざわざああいうことすんの?」
等の感想を耳にした。
雑な線を自然に見せようとしたのですから、前の二つの言葉はある側面から見ると褒 め言葉かもしれません。
・・・違うかもしれません。

監督は、義理人情等で表現されるような密接なつながりを維持している昔懐かしの” 日本的な”生き方を描きたかったそうです。
そして、コタツに入って横になって観るような気楽な世界を描きたかった、とも述べ たそうです。それを夏のまっただ中に映画館で放映してしまうのはどうかと。
それは置いておいて。

山田くんのお父さんは、力んで空回りするけれどもそれでも家長でいようとする態度 、プリクラを家族全員で取る時はニコニコしているが、撮り終わると「バカバカしい 」「疲れた」という顔で一人家族の輪からはみ出て煙草を吸っている。この描写はお 見事です。それにかぎらず、おばあさんの困った顔等他の人物も演技していますが。 やはりお父さんに対する監督の熱の入れようが見て取れます。
山田さん一家の白々しい笑い声はいただけませんが、やはりアニメの絵が演技してい ることは賞賛に値します。

しかし、監督の描きたかった世界と、原作者いしいひさいち氏の描く『となりの山田 くん』の間には大きな大きな溝があるようです。
『となりの山田くん』(現『ののちゃん』)には、一瞥しただけでは気が付かない、 ほんのりと漂うドス黒い悪意(社会の硬直に対する風刺)がありました。
『サザエさん』『ハーイあっこです』などのほのぼの家庭マンガとは一線を画すもの です。
例えば、『フーテンの寅さん』の渥美清さんが亡くなられた時の『山田くん』は問題 発言があります。
おばあちゃんが渥美清さんの訃報を新聞で読みながら、
「死語を背負ってようがんばってくれたわ。」等と言う場面があります。
ここです。
どこが問題発言かわからないでしょう。
死語は『寅さん』についている「フーテン」です。
フーテンってどうゆう意味なのかしら、と思った人が辞書を引くと。ふうてん(瘋癲 )=定職に付かずぶらぶらしている人、重度の精神病の俗称、基地外(書けません)

また、『いしいひさいちの問題外論』(『コミカルミステリーツアー』かも)では小 説家に
「性転換するとて*かんになるんだって*かん」「そうだってんか*」「ほっといて んか*」と言わせてます。(小説家筒井さんの断筆事件の時のです)
やばいです。

最近の『ののちゃん』では読売新聞の責任者渡辺恒雄氏そっくりの『ワンマンマン』 が登場しています。
で、ワンマンです。
ちなみに『ののちゃん』は朝日新聞で連載されています。
・・・。

「『山田くん』を原作にして、監督が高畑氏だということ自体が問題だったのでは。 」
「いしいひさいち先生が可哀想だ。」
などという意見をきいたことがあります。
もし、高畑監督と作風の一致する違う作品を原作にしていたら、あるいは原作のドス 黒い悪意を生かす誰かが監督であったら、全く違う映画ができていたでしょう。
そしてひょっとすると、全く違う結果になっていたのかもしれません。

ミッドウェー・オブ・カートゥーン1で述べましたが、日本アニメは過激な表現を盛 り込んだ描写で知られているようですが、世界で最も過激なアニメはアメリカにある ようです。

その名は『サウスパーク』
独特のカクカクした動きの切り絵風CGと、そこで繰り広げられる大人の常識を逆なで する内容と下品な台詞、過去作品からの引用等で構成されるブラックジョークは日本 のアニメでは『クレヨンしんちゃん』が最も近いと思われます。
が、もっとすごい。「ピー」音が連発されますな。
多分、命知らず。
もしかすると、恥知らず。
映画版では不適切な台詞・行動及び残酷描写の数で、映画史上の記録を塗り替えてい る。
一方で、主題歌がアカデミー賞にノミネートされている。
史上最高に最低な番組かもしれない。

出てくるネタは、
言葉狩り、(小学生の脳にVチップを埋め込む!)
障害者・人種・社会的地位・同性愛の差別問題、
訴訟社会、(小学生が同級生をセクハラで提訴)
消費社会、
宗教的対立、(学校でのクリスマスは無宗派様式に)
医学倫理問題、
自殺、
精神病の教師、
注意欠陥児童、(と、その生徒を隔離しようとする学校)
大企業による文化の画一化、
テレビの子供達に与える影響、
その他たくさん。

アメリカの闇と言うべきか根深い問題と言うか、もはや解決不可能なほどに複雑にか らみ合い矛盾を含んだままの問題をとりあげつつ、
バカじゃねーの
の一言で笑い飛ばしてしまう態度は驚くべきものです。

少し前に日本でも話題になりましたが、顕著な笑いの種にされている話題はPC(ポリ ティカル・コレクト、政治的正しさ)のようです。

PCとはいかなるものか。
『カチカチ山』でおばあさんが狸に殺されて、狸汁にされてしまう部分が残酷だから 削除されるようになった、とか、特撮戦隊ヒーロー番組の女性隊員はいつもピンクな のはおかしい、とか。言葉や習慣から差別や暴力的表現等の害悪を取り除こうとする ことを指します。
特に顕著な例にアフリカ系の少年が虎と追いかけっこをしたら虎がバターになって美 味しいなあ、そんな童話が昔ありましたよね。
題名が差別的だからと童話そのものが抹殺されたというアレです。
関係ないですけどロシアの軍式格闘術はコマンド・サンボ。
大丈夫なのか。

また、少し前に『政治的に正しいおとぎ話』という本が出版されました。
『眠れる森の平均以上に魅力的な女性』(美女、という表現は、個人の意志で変えら れないものに美醜の判断基準を設けているので差別的とのこと)
『サンタによる奴隷的労働から仲間を解放した鼻が赤く光るので放射能汚染の疑いを かけられたトナカイのルドルフ』大真面目に書いてるんですがとある側面から見ると ある意味で面白そうですね。
『赤ずきんちゃん』なんかはえらいことになってました。
オオカミに襲われた赤ずきんがオオカミと格闘します、で猟師がオオカミに銃を向け ると、
「女性はひとりでは戦えないと思っている男尊女卑の思想だ!」(by赤ずきん)
と叫び、殴り合いに勝った赤ずきんはオオカミを説得して菜食主義にしましたとさ、 めでたしめでたし。
・・・。
以上、『政治的に正しいおとぎ話』でした。

話を戻します。
実際PCに関しては、矛盾と言うか人それぞれに見解の相違がありまして、まあ難しい 問題なんですけど、それによって笑っちゃうような(でも笑っちゃいけない)混乱が 起こっていることは事実です。
社会の問題をも滑稽な世界に放り込んだ番組は数あれど、「道徳的」解決であれ社会 的正しさであれ、問題に対する姿勢が誤っていてはかえって害をもたらす事まで踏み 込んで描いた、ある意味で裏側から読んだ道徳の教科書とも呼ぶべき 『サウスパーク』恐るべし。

アメリカの事だとばかり笑ってもいられません。
ノートルダム寺院の鐘つき男の話は題名を変えたのに、なんで『エレファント・マン 』は感動映画として文部省推薦にまでなったのかな。「****」はダメなのに、『 フーテンの寅さん』は大丈夫なのか、場合によっては「ガイキチ」も大丈夫とはどう いうことだ。なお悪いぞ。『本当は恐いグリム童話』って、この間まで童話が少しで も残酷なのは禁止じゃなかったのか、これは二度儲けようとする出版業界の陰謀か。 『****』の病名出しちゃいけない規制は、かえって差別を助長する役割しか果た していない。その他たくさん。

実は世の中の常識はものすごくいい加減、というか、無神経。
いっぺん『サウスパーク』を観賞して性根を叩き直すと良いかもしれませんが、下手 をすると自我を保てなくなる恐れがありますので、本当は恐い『パワーパフガールズ 』で隠されたささやかな悪意に慣れた後、『シンプソンズ』でブラックな社会描写を 味わい『クレヨンしんちゃん』で並み大抵の下品な台詞に驚かないようになってから その後にようやく『サウスパーク』を観た方が良いかもしれません。
まあ、それでもきついんですけど、『サウスパーク』の下品な台詞。
面白ければ何をいってもいいとはけしからん、現代人の文化が低下していることの現 れだ、という意見もあるでしょう。
しかし、深刻な問題に直面していながら、下品な言葉と茶化して笑い飛ばす姿勢によ って現実世界の異常な一面を明らかにする手法は、そしてその存在意義は、中世から ルネサンスにかけて誕生した喜劇と全く根を同一にするものです。

『シンプソンズ』も相当すごいらしいですね。
主人公が精神病院に行って、自分がマイケルジャクソンだと思っている患者に出会う (しかもその声はマイケル本人!)とか、日本のアニメを観ている主人公が突如画面 の点滅が原因で泡吹いて倒れるとか。これってつまりポケモ・・・。
『パワーパフガールズ』も一見すると『それいけアンパンマン』のような勧善懲悪の ほのぼのアニメに見えるけど、やってることが悪人以上に悪辣だとか。

まあ、そこがいいんですけど。



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