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映画発掘、第一回 フィフス・エレメントの未来世界
柳下 徒是有(どぜう)

私は、決して優れた審美眼を持っているわけではないが、個性的な映画を発掘する眼 力を有しているように思っている。私はこれを仮に『邪眼』と呼ぶことにする。
これ は今まで生きて、個性的人間に遭遇することが多かったためであるように思う。結果 、普通なら駄作、あるいは理解の許容量を超えた存在と分類される映画に対しても十 分な免疫を備えることができたようだ。
個性的な映画、それを食べ物に置き換えるな ら、世界三大珍味に例えるべきかあるいは五十倍濃縮カレー大盛りに例えるべきか、 はたまた練りドリアン入りハンバーガーに例えるべきか、私は知らないし、また知ろ うとは思わないが、しかし個性的な映画を面白いと感じ、何か心引かれるものを感じ ていることは確かであろう。忘却の彼方に葬られるには惜しい映画を発掘し紹介して いこう。

フィフス・エレメント
リュック・ベッソン監督の作品。主な映画に、『ニキータ』『レオン』『ジャンヌ・ ダルク』など暗殺者の苦悩や人の孤独を描いた世間一般にも認められる傑作や、『 TAXi』シリーズの単純明解な人物と文字通り完全にかっとんだ設定(300・毎時の改造 車が登場)と風刺(?)を交えた背景の映画の2つの主流作品がある。
この二つの作風どちらとも完全には一致しない第三の作風と言うべき映画が

『フィフス・エレメント』
ストーリーを要約し本筋を抽出すると、
舞台は23世紀、正体不明の絶対悪の出現により、世界に破滅の危機が迫っていた、元 軍の特殊部隊の超エリート、今は免停直前のボロ飛行タクシーの運転手をしているコ ーベン・ダラスのタクシーの上に世界を救う鍵となる女性リ−ル−が突如空から降っ てきた・・・
はっきり言ってこう書くと、100%人生まけ組ダメ人間の前に突如超能力を持った理想 の女性が現われる、まもって!守護月天、とか、ああっ!女神様とかと同じような話 だと誤解されそうです。なぜでしょうか。
人によっては、ちょっと許せない物語導入ですよね。
この物語の主題は、乱暴に要約すると「愛と希望によって人は悪を撃ち破る」となる でしょうが、はっきり言ってなきに等しい主題です。
敵が全宇宙を破滅させるはずの絶対悪の存在(外見は巨大惑星風)なのに何もしない のです。いやほんと、何もしません。
とりあえず宇宙艦隊を全滅させたらしいのですが、具体的に画面にでてきません。あ 、あと、電話もします(巨大惑星が)。

では、ストーリーの主題が弱いからこの映画はダメかと言うと、それは違います。
例えば怪獣映画なんてみんなストーリーがあって無いようなものでしょう。公害に対 する警告がどうとか人類の傲慢さがどうのとかアトランティスの生物兵器がどうだと か言っても結局観客も監督も怪獣が暴れるシーンに一番力を入れて見、製作していま す。ストーリー上の主題は最終的に怪獣が大暴れするための舞台を供給するに過ぎな いのです。

で、私が見たところフィフス・エレメントの真の主題は何か、言い換えると監督は何 をしたかったのかな、と考えてみたのですが・・・
やっぱり未来世界を描いてみたかったのではないかな、と。
スタイリッシュでこ汚い、けったいでかっこいい、という矛盾した町並み(SF映画の 中でもかなりよくできた部類にはいりますよ)には誇張した日常性とも言うべきもの がただよっているのですよ。禁煙マシーンや折り畳みシャワールームや、23世紀のマ クドナルド、冷凍食品の懸賞宇宙旅行とか、宇宙連邦大統領がゴキブリをたたきつぶ すとか。
ゾーク社の新兵器ZF-1の紹介なんか思いっきりテレビ通販ですし。(300発まで自動 追尾するガトリングガン、アローランチャー、ネットランチャー、ロケットランチャ ー、火炎放射機と冷凍ガス発射装置と自爆装置が一つになった!素晴らしすぎます)

また、この未来世界では様々なSFのパロディが隠されています。
軍の中佐のヘアスタイルがスターウォーズのレイア姫と同じ、神父の服装はオビ・ワ ン・ケノービそのもの、そのような目でみると宇宙人歌手もジャバの宮殿にそっくり さんがいたような。空飛ぶ屋台のおっちゃんはブレードランナーにも登場しています 。なぜだか戦闘宇宙人の姿は異様にチープです、これは特撮映画を意識したのでしょ うか。とどめにブルース・リー師匠の映像もちょっとだけでてきます。

さらに、この映画はリュック・ベッソン監督作品総集編とも呼べます。
レオンと同じ点をいくつか探すと、悪役はゲイリー・オールドマンが演じ、主人公は アパートで一人暮らしするおっさん、コーベン氏の銃撃シーンにもレオンの香りがた だよっています。
そして、主人公は『TAXi』と同じく改造タクシー運転手。
リールーがビルから飛び下りる映像は後の『ジャンヌダルク』での場面に似ており、 宇宙人オペラ歌手のシーンはカメラワークも照明も舞台も最新作『ダンサー』に似て います。

このように、監督の未来世界に関しての熱の入れように対して物語があまりになおざ りです。もともとリュック・ベッソン氏は物語の全体より部分(設定であれあるいは 演技であれ)ストーリーよりメッセージに才能と興味を向ける監督です。そして、こ れほどまで未来世界を描写することに力を傾けているのを見ると、やはりこれらの未 来世界のためだけにこの映画を作ったに違いないと断言できます。
まず、細部を作りたいという思いがまず最初にあって、その後に壮大な物語を作らね ばならないという制約がかかってきた。その結果このような映画ができてしまうのは 歴史の必然でしょう。

細部に作り込みが行き渡っているのに主題が曖昧になってしまっている、これは日本 のテレビゲームではしばしば見られる特徴ですね。(得に最近9が出たやつのシリーズ とか)

同じように個性的な未来像を示した名作の一つと考えられている『トータル・リコー ル』と比べると、テレビ登場率が低いような気がします。文学的価値、物語としての 内容では大きく負けています。当然です。もとから『フィフス〜』はそのような物を 目的にしていないからです。むしろ映像を味わうための作品でしょう。監督が作りた い世界を自由奔放に作り上げた映像は、どの映画にも負けない未来世界になっている といっても過言ではありません。
色数を限った美しい映像からカラフルな舞台、60年代摩天楼と23世紀建築の融合、チ ープなきぐるみと豪華な造型、パロディや皮肉をこめた演出。この映画は相矛盾する 二つの作風を持ったリック・ベッソン監督の技術がつまった、監督そのものを抽出濃 縮した傑作である。とここに断言しましょう。
物語性はゼロだけど。

それでは皆様、これからも楽しい映画人生をお楽しみください。
フォ−スが共にあらんことを。



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