当日。
水瀬家には6人の女と1人の男がいた。
「皆さん揃ったようですね。では、行きましょうか。」
玄関前で秋子さんが号令を下す。
「うにゅー、いくだおー。」
「ちょっと、名雪、こんなところで寝ないでよね。」
「祐一さんとお出かけですー。」
「あうーっ、荷物が重いー。」
「祐一君、結局どこに行くんだっけ?」
「ん、なんか山のほうみたいだぞ。」
がやがやしながら秋子さんの借りたレンタカーに乗り込む。
なんとも騒がしい一行であった。
到着。
「朝の10時に着くとは・・・。名雪がいるのに奇跡だ。」
気持ちのいい新緑の満ちた空気を吸いながら、祐一は思っていた。
「本当ね。」
香里が祐一の独白に答える。
「む、香里、俺の心に突っ込むとは、お主超能力者だな。」
「声に出てたわよ。」
「うぐ・・・。」
なんとなく言ってしまう祐一。
「うぐぅ、祐一君、盗らないで。」
「おう、うぐぅはうぐぅ星人の専売特許だもんな。」
「うぐぅ、ボク人間・・・。」
「さあさあ、入りましょう。」
秋子さんが祐一たちを促す。
ペンションは、こぢんまりとした、荒削りで質朴な外見に似合わず、中は広くてとても奇麗だった。
髪の少し禿げたご主人が話し出す。
「いらっしゃいませ。ようこそ吾妻荘へ。」
「3日間、お世話になります。」
「うー、お腹すいたー。」
「真琴さん、少し早すぎますよ。」
栞が真琴をたしなめる。
ご主人の顔が少し暗くなる。
「あのー、まことに申し訳ないのですが、当ペンションでは食事をお出しするのは朝と夜になっておりまして・・・。」
「あらあら、どうしましょうかね。」
秋子さんが口元に手を当てて困ったように言う。でも、顔はぜんぜん困ったような顔をしていない。
祐一が言い出す。
「このまま町に戻って食べますか?」
向こうの方から名雪の声がする。」
「祐一ー、おかあさーん、こっちにバーベキューセットがあるよー。」
「名雪、あまりはしゃぐんじゃないわよ、恥ずかしいでしょ。」
「えぅー、そんなこというお姉ちゃん、嫌いですー。」
賑やかな方を向いてみると、確かにバーベキューセットが一式置いてあった。
「あらあら、ご主人、あれは借りられるのかしら?」
「もちろんです。」
「では、1セットお願いします。名雪、真琴ちゃん、あゆちゃん、香里ちゃん、栞ちゃん、お昼はバーベキューにするわよ。」
鶴の一声で決まった。
「では、準備をしないといけないわね。」
30分後、自分たちにあてがわれた部屋に全員が集まったところで、秋子さんが言った。
「とりあえず、私と祐一さんは町に食材の買出しに行きます。残りの人は、こっちで準備をしていてください。」
「イチゴサンデー」
「うぐぅ、タイヤキ」
「肉まーん」
「アイスクリーム、バニラでお願いします。」
「はいはい、ちゃんと分かってますわよ。」
そして・・・・
ペンションの庭にて。
女性陣(秋子さん除く)は、石を積んだり、金網を用意したりしている。
空は抜けるように青く、まさに絶好の日和だった。みんなはしゃいでいる。
「おかあさんの作るバーベキュー、見たことないよ。楽しみだよー。」
「ボク、バーベキューって初めて。」
「ふうん、こーいうのをバーベキューって言うんだ。」
「あれが出ないことを祈るわ。」
何気ない香里の独白。空気が凍る。答えたのは意外にも真琴だった。
「まさか、秋子さんだって、あれは持ってこないと思うけど。ねえ、あゆあゆ。」
「うぐぅ、ボクあゆあゆじゃない・・・。」
「おねえちゃん、あれってなんですか。」
「言葉通りよ。」
「えぅー、お姉ちゃんがいじめますー。」
「ねえ、栞ちゃん。世の中には知らないほうがいいこともあるんだよ。特に秋子さんに関しては。」
「しおしお、あれは人間の食べ物じゃないわ。」
「おかあさんもあれがなかったら・・・。」
そのとき、全員の胸に響いてきたのは・・・
(あらあら、今日はみんなお仕置きですかね。)
「うぐぅ」
「あうーっ」
「うー、香里のせいだよ。香里があんな話するから。」
「ちょっと、何であたしのせいなのよ。みんな言っていたじゃない。」
「えぅー、話についていけないですー。」
と、そのとき・・・
「おらおら、手を上げやがれ。」
5人がその方向を見ると、30人ぐらいの人々が銃をこっちに銃口を向けている。
服は迷彩で、怪しさ大爆発である。
仕方なく手を上げる。
と・・・
「はうっ」
栞がくずおれる。
「第1班、そこの女どもを縛り上げろ。第2班、第4班、そこの建物に突入せよ。第3班、周辺区域の警戒に当たれ。」
「ちょっと、栞、栞ー。」
そして・・・・
彼女たちはペンションの一室に転がされていた。
カーテンも閉められていて、何も見えない。ただ、お互いの息使いだけが響いている。
いや、見張りが一人一緒にいた。覆面で顔は見えないが。
「くふふふふ。これで我々の天下よ・・・。」
そのころ・・・
街で祐一が秋子さんと買い物をしていると、通りかかった電器屋の街頭テレビでニュース速報をやっていた。
「・・・・という訳で、ペンション吾妻荘は、狂信的同性愛賛美秘密結社M.S.G(マッチョ・賛美・グループ)によって、占領されています。なお、中には何人かの人質がいる模様で、包囲した機動隊も手が出せない模様です。官房長官の記者会見によると・・・・。」
人々の視線がテレビに釘付けになっている。
「・・・・秋子さん。」
「なんですか、祐一さん。」
「あれって、もしかして・・・・。」
「あらあら、名雪たち、大変ですね。」
祐一がかんしゃくを爆発させる。
「あらあら、じゃないですよ。人質なんですよ。人が人質を人にとって名雪が栞を香里でマコピー敵にうぐぅ化してるんですよ。」
秋子さんが、少し困ったような顔で、
「祐一さん、少し落ち着いてください。」
「落ち着いていられますか! だって、だって・・・」
「とりあえず戻りましょうか。」
「はい。」
祐一がそう言うと、突然周りの景色がぐにゃりと・・・。
次に気がついたとき、秋子さんと祐一は機動隊のまんまん中にいた・・・。
「う・・・、ここは?」
「さっきのペンションですよ、祐一さん。」
秋子さんが答える。
祐一が頭を振って考える。帰ってきた過程が記憶にない。
「あのー、秋子さん、どうやってここへ?」
「企業秘密です。」
その間も、周りでは必死の説得が続いていた。
「君たちのお母さんは泣いているぞー。」
「今からでも遅くない、反省してでてきなさーい。」
しかし、効果はあまりないようだ。
向こうから声が返ってくる。
「我々が要求するのは唯一つ、この日本国における女性の撲滅だー。クローンが開発された今、時代は同性愛である。異性愛などという前近代的で不自然な愛は捨てて、薔薇の世界を堪能すべきなのだー。まず、我々は、この崇高な目的のために、日本を漢の国にする。君達こそ我々の理想を受け入れよ。そしてこの地上に楽園をつくろうではないかー。」
祐一君の感想である。
「く、狂ってる・・・。」
「あらあら、これは突入しかありませんかね♪」
(あ、秋子さん、なんでそんな楽しそうに言うんですか・・・)
「さあ、祐一さん、行きますよ。」
「えっ、行くってどこへですか。」
「司令官のところです。ちょっと用事があるので。」
「待ってください、そんな簡単に司令官に会えるはずが・・・。」
そのころ、モニターを見てほくそえむ1人の男を北の街に見出すことが出来る。
「ふ、俺の相沢を奪った罰だ。奴らを殲滅して、必ずや相沢をこの胸に抱いてくれる・・・。覚悟しとけよ、世界と相沢の肉体はこの俺、北側潤の物だと言う事を・・・。くははははははははは・・・・」
会えてしまった。簡単に。
しかも・・・
「はっ、水瀬秋子様でございますか。小生、この、作戦Kを担当させて頂いております、陸上自衛隊第2部隊大佐、藤山幸弘と申します。以後、お見知りおきをよろしくお願いたします。」
敬語を遣っている。
(秋子さん、貴女は一体何者なんですか・・・・)
(あらあら、祐一さん、そんなに謎ジャムが食べたいですか?)
「がふっ」
「あらあら、祐一さん、どうしました?」
「い、いや、何でもないです。」
そこに司令官が口を出す。
「で、秋子様、こちらをお尋ねなされたご用件とは一体なんでございましょう?」
「あらあら、忘れるところでした。この人質の件、私にお任せくださいます?」
「い、いや、しかし・・・」
「お任せくださいます?」
秋子さんの口は笑っているが、目が笑っていない。その口調には、有無を言わせぬ気迫が在った。
「は、分かりました。」
「そうそう、そうすればいいのですよ。」
(秋子さん、貴女凄すぎです・・・。)
「さて、祐一さん。」
「は、はい。」
祐一は突然のことにすぐに返事できなかった。
「あの子達を助けてきてください。」
「いや、しかし、どうやって。」
「祐一さんなら大丈夫ですよ。それとも、私が信じられないとでも?」
「いや、そういうわけではありませんが、しかし・・・」
「祐一さん。」
「はい?」
「この新製品のジャム30種とどっちを選びます?」
「謹んで、助けに行かせて頂きます。」
(仕方ない、少なくとも助かる可能性の高いほうにかけるか・・・)
恐るべし、謎ジャム。
「では、今夜7時に決行です。頑張ってください。」
「はい、分かりました・・・。」
そのとき、祐一の後ろから肩を叩く者があった。
「あ・・・」
司令官である。
「少年よ、強く生きろよ。」
「・・・・努力します・・・」
後書き
新しいキャラが出てきました。ちなみに、北川君の出番は多分これだけです。今回は、あまり盛り上がりなかったですね。多分、次で終わります。当分かかるかもしれませんが、年内には終わらせるつもりですので、期待せずに待っていてください。